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 ゼロ太郎に煽られた俺は、ものの見事に手のひらの上。目にも留まらぬ速さで身支度を終えて、家事に勤しむカワイを眺めに来た。  飛び出すような勢いで姿を現した俺に、状況をなにも知らないカワイはビクリと尻尾を跳ねさせる。 「えっ。ど、どうしたの?」 「カワイを眺めに来ました!」 「ホントにどうしたの?」  目に見えて困惑するカワイも、良いものだ。俺は戸惑っているカワイを見て、コクリと頷いた。  エプロンと、ポニーテール。家事に集中する時しか見られない、貴重な姿。やはり、急いで身支度を終わらせてカワイを見に来たのは正解だったらしい。心が満たされたのだから。  しかし、カワイに見惚れている場合ではない。俺はふと、気付いた。  俺視点のカワイは『可愛い』という好意的な印象が強い。だが、カワイ視点だとどうなのだろう。俺は不意に、そう考えてしまったのだ。  と言うことで早速、確認してみよう。依然として戸惑っているカワイに近付いて、俺はニコリと笑みを浮かべた。 「お待たせ、カワイ。今日の俺も格好いいかな?」 「うん、カッコイイよ。でも、ヒトは寝起きもカッコイイ」 「えぇ~っ、そうかなぁ~っ? えへへっ、えへへ~っ!」 「それでいて、カワイイね」  んんっ? 今、カワイに『可愛い』って言われた? えっ、この距離で聞き間違いかな?  ま、まぁ、とにかく。カワイも俺に対して好意的な印象を抱いてくれている、という結果だ。なんであれ、好きな子に良い印象を抱かれているというのは、やはり嬉しい。  ……好きな子、と言えば。ゼロ太郎に相談しても解決しなかった、さっきの話だ。  ──いったい俺とカワイは今、どういう関係性なのだろう。  なんでも知っているゼロ太郎に訊いたって、分かるはずがない。さすがの俺でも、それは分かっている。なぜならこれは、俺とカワイの問題なのだから。  カワイは俺に、告白をしてくれた。これはほぼ、間違いのない解釈だろう。  いくら俺が弱っていたからと言って、ただ励ますためだけにあの言葉選びはしないはずだ。クールで天然で優しすぎるカワイだとしても、それはない。  ならばやはり、あの日の言葉は……。可愛いカワイを見下ろしながらそこまで考えていると、ゼロ太郎がポンとカワイに話しかけた。 「カワイ君。突然のお願いで申し訳ないのですが、アレを用意していただけますか?] 「『アレ』ってなに?」  ゼロ太郎の奴、いきなりどうしたんだ? カワイと同じく、俺もゼロ太郎が言う『アレ』の正体が分からないぞ?  あっ。もしかして、俺のお弁当かな? つまりゼロ太郎は、俺を早く追い出そうとしているのか? まったく、ゼロ太郎は相変わらず俺に対して厳し──。 [──体温計です] 「──ゼロ太郎、ずっと俺のことをそんな目で見てたの?」  早く追い出すよりもタチが悪いじゃないか! 酷いっ! これはあまりに酷いぞっ!  ちなみに言っておくが、これは俺がつい先日まで【不調】に陥っていたからではない! 完全確実に、ゼロ太郎は『主様がヤベェ。発熱か?』みたいなことを考えてカワイに頼みごとをしたんだ! 俺には分かるぞ! [ドヘタレが心の中でなにか喚いていますね] 「くっ! ぐうの音も出ない!」  エスパーゼロ太郎に心を読まれた俺は、真っ直ぐすぎる『ヘタレ』発言に胸を押さえた。

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