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 そう言えば以前、草原君にはカワイとのことを相談したっけ。激しく動揺しながらも、どこか冷静な俺がそう語る。  しかし、月君は知らない。俺が草原君に相談したことはおろか、そもそも俺にそんな話があるということすら知らないのだ。 「えっ、えっ? なんスかっ、えっ? センパイ、好きな子いるんスか! しかもオレには話さず三日月には話したんスか! なんでッスかセンパイ!」  と言うことは、俺を慕ってくれている月君のこの反応は正当だろう。いつだって俺に少なからず信頼と言うか好意的な態度を向けてくれている月君は、俺と草原君のやり取りに驚いて当然かもしれない。  だけど、言えないのだ。月君にだけは、絶対に言えない。理由は説明しなくたって分かるだろう? 分かってほしい。  だって、月君は知っているのだから。 「いやいやいやっ! ちがっ、違うんだよ月君っ!」 「まさか追着様、冗談であのようなお話をなさったのでございますか? 見損なったでございますよ」 「君はちょっとお口チャックしようか草原君!」  さっきから草原君は容赦なくバズーカを撃ちまくるなぁ! バズーカのくせにガトリング砲みたいに連射するんじゃありません!  とにかく、先ずは草原君を止めないと! そうしないと、月君の中で俺は犯罪者になってしまう!  月君は、俺とカワイの出会いを──さらに言うのなら、カワイの外見を知っている。そんな月君に、この話を打ち明けるわけにはいかない。  だが、駄目だ。なぜなら相手は【月君を大好きすぎて仕方がない草原君】なのだから。 「竹力様がご存知かは存じませんが、追着様の想い人はなんと人間ではございません。悪魔でございます」 「待った! 待った草原君!」 「──そしてそのお相手は、なんと同居中の悪魔なのでございますよ!」 「──うわぁあーッ!」  俺には、止められなかった。好きな人と会話できるだけで喜び満々な草原君を、止められなかったのだ。  相変わらずの無表情だけど、心なしか草原君は嬉しそうに見える。月君とこういう話ができて、嬉しいんだろうなぁ。  念のために言うと、草原君に悪意は無い。なぜなら草原君は、月君に打ち明けることがどういうことかを知らないのだから。  つまり、草原君は『仲間外れ、良くない』という心理しか持っていない。うん、そうだね。その通りだと思うよ。  でもね草原君、俺は駄目だと思うなぁ。恐る恐る月君に目を向けながら、俺は草原君を心の中で窘める。 「センパイ……」 「つっ、月君っ?」  月君と、目が合った。その表情は、言うまでもなく……。 「──マジでヤベェッスね……」 「──そう言われると思ったから君には言えなかったんだようッ!」  ドン引き。この言葉の意味を検索して真っ先に出てくるのは今の月君の表情だろうってくらい、見事なドン引きだ。  俺はデスクに突っ伏し、ガシガシッと頭を掻き乱す。ポケットに入れたスマホから[時間をかけてセットした髪が……]ってぼやきが聞こえたけど、それどころじゃない!  バレてしまった、バレてしまったのだ。俺を慕ってくれている月君に、俺がショタコンでヘンタイでどうしようもない男だということが! [──まぁ、事実ですからね] 「──慰めてよ!」  容赦のない現実に、俺は頭を抱えるしかできなかった。

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