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 唯一なにが起こっているのか分かっていない草原君は、それでもなぜか平常運転だった。 「追着様と恋バナをしたのは、確か夏の終わり。そして今は、秋の終わりが近付いてございます。それなのに、追着様はまだ足踏み状態のままということでございましょうか?」 「えっ、なんでこのまま話を続けるの? 一旦止まろうよ。と言うか止まってよ、お願いだから!」  草原君は自由すぎる! 完全に翻弄されながら、俺は草原君のスーツの裾をクイクイッと引っ張ってしまう。  ちなみに、月君はと言うと。 「季節ひとつ分ですか。……センパイ、ヘタレすぎませんか?」 「うぐぅッ! 後輩二人のガチでマジな憐れみの目は精神的にくるものがあるッ!」  俺へのドン引きを残しつつ、ハッキリと憐れんでいる! 高度! 高度すぎるよその態度!  痛い、胸が痛い。俺は頭を抱えていたはずなのに、気付けば胸を押さえていた。そのくらい、心が痛んで仕方がないのだ。  いざ言葉にされると、月君が言う通り俺は確かにヘタレかもしれない。草原君が言う通り、ずっと足踏み状態なのだから。  俺たちの話は聞こえていない周りの職員が、視線や表情で『どうした追着、大丈夫か』と言っている。見ようによって今の俺は、後輩二人に責められているのかもしれない。ちなみにそれ、正解です。  そろそろ、話題を変えなくては。俺は震える体をなんとか動かして、ニコリと笑みを浮かべてみせた。 「ま、まぁまぁ。俺の話は置いておいて、そろそろお昼ご飯でも──」  だが、俺の行動はなぜかいつも少し遅いらしい。 「──よっし! ここはいっちょ、カワイ君の気持ちを偵察ッスね!」 「──嘘でしょッ!」  月君の一言が、俺たちの今後の行動をバチッと決めてしまったのだから。  すぐに、草原君が動く。右手をポケットに入れ、左手を自身の胸の前に持ってきたのだ。 「やはりマンションでございますね。いつ出発するでございます? 私も同行するでございます」 「えっ、なにっ! 急にグイグイ来たねっ!」  なんでそういうネタを知っているのかな! カワイもそうだけど、悪魔の探求心って本当に不思議!  ……って、いやいや! そんなところにツッコミを入れている場合じゃないよ! だってまさか、こんな形で部屋に誰かを招くことになるなんて!  俺はすぐにスマホを取り出し、ゼロ太郎に小声でヘルプを求める。このままでは、後輩二人に茶化されてしまうではないか。そんなの恥ずかしすぎる! 「ヘイ、ゼロ太──……ゼロ太郎?」  すると、なぜかスマホは既に点灯済みだった。俺、まだ画面に触ってないのに……なぜ?  しかも、そこには……!  ──来客、もてなし方。……そんな検索画面が表示されていた。 「──メチャメチャにノリノリじゃんッ!」  忘れていたけど、ゼロ太郎は結構前に『部屋に誰かを招かないの?』みたいなことを訊いてきたっけ。……えっ、あれっ? もしかしてゼロ太郎、俺の友人なり知人なりを部屋に招きたかった感じっ? だとしたら今までごめんね!  いっ、いやいやっ! だけど、目的が目的すぎる! 今この状態の二人をカワイと会わせたら、なんだか大変なことになっちゃう気がするよ!  これはもう、二人を説得した方が効果的かもしれない。矛先を切り替えた俺は、すぐに二人へと手のひらを向ける。 「えぇっと、お二人さん? 気持ちは嬉しい気がするようなしないようなって感じだけど、明日はせっかくのお休みだよ? 早めに帰宅した方が──」  だけど、やはり少し遅かった。 「──あの時行き倒れてたカワイ君、元気にしてるッスかね……」 「──同族のフレンドが増えるのはマンモス嬉しいでございます」  ……。…………。  ……くっ! 「──今晩の仕事終わり、俺についておいで二人共!」 「「──はいっ!」」  こんなことを言われて拒否できるものかぁ~っ! 俺は二人にそう言ってから、ゼロ太郎に後のことを託すのだった。

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