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予測可能、回避不可能。そんな言葉がまさにピッタリな、この現状。
「思えばマンションを勧めたのは僕ですが、実際にお部屋へ入室するのは初めてでございますね」
「えっ? このマンション勧めたのって三日月だったのか?」
「そうでございます。よろしければ、僕たち二人の愛の巣を探しておくことも可能でございますよ?」
「結構でございます」
まるで、遠足。二人は律儀に手土産を持ってくれながら、キャッキャとはしゃいでいた。
気が重いような、嬉しいような、照れくさくて気恥ずかしいような……。複雑な心境になりつつ、俺は二人を連れて自分が借りている部屋へと進んでいく。
「えーっと。俺の部屋、面白いものはあまりないよ?」
「大丈夫ッスよ! 今日の目的はセンパイ自身とカワイ君ッスから!」
「勿論、ゼロ太郎様にもご挨拶をいたしますでございます。お任せくださいでございますよ」
「ワァ~、気が楽ダァ~」
[主様、もう少しそれらしい声をですね]
知っているんだぞ。ゼロ太郎だって乗り気だって。俺は知っているんだからな。
ちなみに、もう一人の主役──カワイの反応はと言うと。
『来客のおもてなし、憧れてた。任せて。カンペキにこなすから』
というメッセージが返ってくるほど、乗り気だった。とどのつまり、自分の部屋なのに俺だけがアウェイ状態だ。不思議すぎる。
……まぁ、でも。
「思えばオレ、センパイの部屋に行くのってマジで初めてだ! うわぁ~っ、テンション上がるぅ~っ!」
「僕も人間界で誰かのお部屋に入るのは初めてでございます。……あっ。魔界でもそのような経験はございませんでした」
「悲しくなるようなこと言うなよ……」
「悲しくはないのでございますが、竹力様の悲しそうなお顔は好ましいでございます」
二人共、本当に楽しそうだなぁ。ゼロ太郎も今日はやけにスマホを振動させて定時で帰るように訴えてきたし、カワイも三十分置きくらいに『今日は早く帰って来られる?』ってメッセージをくれたし……。
好きな人たちが、全員嬉しそうなんだ。部屋に来る理由はなんであれ、こっちも嬉しくなってしまうじゃないか。
「──それと同時に、大いなるプレッシャー……! 二人に楽しんでもらえなかったらどうしよう!」
[──主様はかなり拗らせていらっしゃいますね]
こんな経験初めてなんだよう! 不安にだってなるじゃないか! 俺は胸を押さえながら、それでも歩みを進めた。
駄目だよな、こんなことを考えていちゃ。もう少し、もう少し前向きに振る舞おう。
今日は初めて、誰かを部屋に招く日。今日はとっても、ウキウキでワクワクな日なんだ。
「ここが俺の部屋だよ。二人共、ようこそぉ~っ」
「お邪魔しまッス!」
「ご案内ありがとうございます」
とにかく、今日は楽しもう。きっと、楽しいに決まっているんだから。そんな気持ちで、俺は玄関扉を開けた。
するとすぐに、エプロン姿のカワイが玄関に向かって俺たちを出迎えてくれて──。
「──あっ、兄」
「──あっ、弟」
なんということでしょう。
カワイと草原君は、ご兄弟みたいです。
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