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 ──って納得できるかぁ~いッ! 「──えっ、嘘でしょ? カワイ、兄のこと『兄』って呼んでるの? 可愛く『お兄ちゃん』とか、男らしく『兄さん』とかでもなく、ただシンプルに『兄』って呼んでるの?」 [──先ず突っかかる点がそこなのですか?]  ゼロ太郎のツッコミはどこ吹く風。俺は出迎えてくれたカワイの肩をガシッと掴み、グワングワンと前後に揺さ振った。  対するカワイは俺と違い、とても冷静だ。言い換えるのなら、いつも通りだった。 「うん。だって、兄だから」 「いやそれはそうなんだけど!」  事実だけど納得できないよ! だって俺、弟って存在に夢を見て今まで生きてきたから!  しかし、すぐさま俺はハッとする。この話題は【兄がいて成立する話題】なのだから。  俺の矛先は即刻、後ろで無表情のまま立っている草原君に向けられた。 「って言うか! 草原君もそうだよ! 名前とか愛称じゃなくて、カワイのこと『弟』って呼んでるのっ?」 「ええ。なぜなら、弟でございますから」 「いやそれはそうなんだけど!」  こう見ると本気で兄弟だなこの悪魔たち! 納得します理解します! 君たちは兄弟だよ!  月君は「確かに似てるッスね!」と、なぜかこの状況を楽しんでいる。俺にとっては『兄』呼びがかなりショックなのだけど! 月君は平気なのっ?  カワイの肩をしっかり掴んだまま、兄弟を交互に見る。すると、草原君がサラリと告げた。 「ご存知だとは思うのでございますが、彼の名前は【カワイ】ではありませんよ」 「えっ、それは当然──……言われてみると、俺はカワイの本名を知らないなぁ」  言われて、気付く。好きな子の本名を知らないって、ちょっとよろしくないのでは? と。  しかし、カワイの反応は。 「本名とか、ない。ボクの名前は【カワイ】だよ。ヒトが付けてくれた【カワイ】が、ボクの名前」  可愛い! この一言に尽きる反応ではないか!  この場に後輩がいなかったなら、俺はカワイの細っこい体をムギュムギュッと抱き締めていたことだろう。そのくらい、感動がすごくすごい!  とにかく、俺としてはカワイの答えが大満足だ。妙に誇らしく、実の兄が相手だとしてもドヤ顔をしてしまうほどに。  俺のドヤ顔を受けて、草原君はヤッパリ表情を変えない。それどころか……。 「──ちなみに、悪魔に付いた魔界での名前は人間には聞き取れないのでございます」 「──ならなんでカワイの本名が違うって話題を出したのかな?」  いつもの不思議オーラ全開な言葉を返してきたではないか! なんだったの、今の数秒は!  ……んっ? 人間には聞き取れないのなら、俺はどうなんだろう? なんて疑問は、別に掘り下げなくてもいいので放置で。 [主様。いつまでもお客様を玄関に立たせておくのはどうかと思いますよ] 「そうだよ、ヒト。マナーがなっていないよ」 「どうしましょう、センパイ。今の会話でオレ、センパイのこの家でのポジションが分かっちゃったッス」 「これが【尻に敷かれている】ということでございますね。さすがセンパイでございますね、勉強になったでございます」  前途多難な宅飲みが、始まる。俺はカワイの肩から手を離して再度、己の胸を押さえた。

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