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 大いなる不安を抱きながら、俺は月君と草原君を部屋に招いた。  驚いたのは、カワイとゼロ太郎の行動だ。いつも綺麗な部屋がさらに綺麗になっていて、スッキリと片付いている。  そして、料理だ。急に二人分の料理を多く用意しなくてはならなくなったはずなのに、カワイとゼロ太郎に隙は無かった。 「枝豆のコロッケ、牛肉のコロッケ、ジャガイモのコロッケ、長いものコロッケ……。沢山揚げたよ」 「コロッケパーティーじゃん!」  なんだか男子高校生の集まりみたいな感じになっちゃってるよ! どれもこれもおいしそうだけどね!  食卓テーブルに着いた俺たちは、料理を見て様々な感想を抱く。 「これは、たまごスープッスか?」 「うん、そう。辛いものが平気なら、ラー油を垂らしてもおいしい。あと、敬語は要らない。ボクも遣わないから」 「こちらの、マグカップに入っている物体はなんでございますか?」 「マグカップで作れる、ミルクティーゼリー。食後のデザートだよ。……あと、兄。口調が変だね」  カワイ、全然物怖じしていないなぁ。一人はお兄さんだとしても、もう一人はカワイからすると初対面だけど……。 「じゃあ遠慮なくタメでいくとして……。それにしても、行き倒れてたのを見た時はビックリしたけど、元気に過ごしているみたいで安心したなぁ」 「ヒトと一緒に助けてくれたんだよね。ありがとう、ツキ」  カワイも月君も、人見知りするタイプじゃないもんね。会話をする二人を見て、俺はホッと胸を撫で下ろした。  だが、問題はこちらの悪魔で……。 「熱視線を感知でございます。竹力様に見惚れているようでございますが、ご弁明はございますか?」 「ごめんね、草原君。話が飛躍しすぎて言葉が出てこないよ」  草原君はもう少し空気と言うか、ペースと言うか。もっと俺たちに馴染もうよ!  どうやら、草原君の冗談が好みではなかったらしい。すぐさまカワイとゼロ太郎が牙を剥いた。 「お酒を飲むのと、物理と、魔術。どれで記憶を消されたい?」 [今なら【脳に電流を流す】という方法も候補に加えますが?] 「消す方向で話を進めるのはやめよう?」  なぜか、俺に。  とんでもない冤罪をかけられ、しかもそれがマジの罪状みたいな扱いを受けてしまった。なぜだろう、俺は月君だけじゃなくてカワイも見ていたのに。 「センパイって、悲しいくらい信用がないんですね……」  月君には『それでもオレはセンパイを尊敬しているッスよ!』みたいな温かい目を向けられてしまう始末。うぐぅ~っ! 立つ瀬がない~っ!  こんな空気を作った張本人こと草原君は、自分の世界観を一切崩す気配が無かった。突然、わざとらしく「ハッ!」と言い、立ち上がったのだから。  そのまま草原君は俺に近付き、コソコソと小さな声で耳打ちを始めた。 「今気付きましたが、追着様が弟と良い雰囲気になると、もれなく僕は追着様の義兄になるということでございますね」 「──なんじゃそりゃ! たちが悪すぎるよ!」 「──その返しは不本意でございます」  大丈夫かな、今日。俺たち全員、無傷で明日を迎えられるかな。草原君の言葉を思わずバッサリと切り捨てながら、俺はらしくもない憂いを抱いた。

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