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おいしいコロッケに、スープ。食後のデザートまで用意をしてもらった俺たちは、すぐご機嫌になった。
「センパイのお弁当を見ていつも思っていたッスけど、カワイ君の料理ってマジでおいしいッスね! いくらでも食べられそうッス!」
「でしょ~っ? カワイの料理は最高だし、カワイも最高なんだよぉ~っ!」
「なるほど、竹力様は料理上手な方に好印象を抱く傾向があるのでございますね。これは帰ってすぐに料理をマスターしなくては……」
「実の弟相手になに張り合ってるんだよ。自分だってメチャクチャ食べてるくせにさ」
どうしよう。……すごく、楽しい。
思えば俺、会社の飲み会以外で誰かとご飯ってあまり経験が無いんだった。しかもそれが、自分の部屋になると本当に皆無で……。た、楽しいぞ、これ。
妙に落ち着かなくて、ソワソワしてしまう。するとどうやら、カワイも似たような感想を抱いていたようだ。
「ボクは誰かと一緒にご飯を食べようとしてこなかったから、今日はいつも以上に新鮮な気持ち」
「そうでございましょう。弟は僕と同じく、他者との関わり断絶型でございますからね」
「それ、誇らしげに言うことじゃなくね?」
「月君に同意だよ。俺が言えたことじゃないけど、もっと他者と関わろうよ」
どうやらこの場にいるほとんどが、この状況を新鮮に感じているらしい。
しかし、月君はこういう経験が多いのだろうか。俺たち三人はしみじみと感慨深い気持ちになっているのに、月君だけは楽しそうにしているものの、平然としているように見える。
お昼を一緒に取ることはあるけど、こういった【完全プライベート】って集まりを月君としたことがあまりない。だけど、月君はこういう経験が多い。と言うことは、つまり……。
「なるほど、ヤッパリ俺は月君との友好度が低いんだ」
「えっ? いや、オレにとってセンパイは超絶あこ──」
「──仲良くなるには……組体操、かな」
「──センパイ、マジで時々ワケ分かんないこと言うのなんなんスか」
月君憧れのセンパイとして、ちょっと危ういのではないか? 謎の焦燥感に突き動かされた俺は、自分でもよく分からない発言をしてしまった。
だが、ここにいるのは変わり者ばかり。特に月君関連だと頭のネジを自ら外すタイプの草原君がいる。
「組体操でございましたら、僕がお相手を。さぁ、竹力様。体のどこでも、僕に任せてくださいませでございます」
「イヤだイヤだイヤだッ! 三日月とはしたくない! なんかっ、なんかイヤだ!」
続いて、俺への警戒心ゼロなカワイが口を開く。
「ヒト、ヒト。クミタイソーがなにか分からないけど、二人ですることならボクがヒトとする」
「なにか分からないのに俺としたいのっ? ヤダもうカワイったら可愛すぎる!」
キャッキャ、ウフフ。俺たちは楽しく晩ご飯を──。
「──なんでそれは言えるのに、一番言いたいことは言えないんスか?」
「──ゴフゥッ!」
食べていたはずなのに! 月君の唐突すぎるドストレートな問い! 俺のライフはゼロだ!
月君が発した言葉の意味はおろか、そもそも今日どうして二人がやって来たのかも分からないカワイは、可愛らしく小首を傾げた。
「一番、言いたいこと?」
「わーっ! わーッ! なんでもないっ、なんでもないよカワイーッ!」
「えっ、わわっ」
すぐに俺はカワイの耳を塞ぐ。そのまま俺は、ほにゃほにゃと笑う月君に視線を向けた。
「ちょっと、月君! 順序! 順序があるから!」
「ハイ! オレもそれは常々、三日月に対して思ってます!」
「んんんッじゃあちょっとお口チャックしようねぇッ!」
ヤッパリこの集まり、危険すぎるよ! 耳を塞がれたカワイが「なにも聞こえない」と呟く中、俺は緩みかけていた気を引き締めた。
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