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手を繋いで、部屋までの通路を歩く。
「人間は嬉しいことがあったとき、赤いお米を食べるんだよね? 明日は赤いお米を炊こうかな」
「お赤飯のこと? 最後に食べたのっていつだっけなぁ~。でも、チーズ焼きに合うかな?」
「合わせる。ボクとゼロタローならそのくらい、ちょちょいのちょい」
「頼もしすぎて楽しみだよ、明日の晩ご飯」
他愛のない話をして、笑い合って。いつも通りだけど、今までとは違う。
会話の内容も、スキンシップが多めなのも。それは全部、今まで通り。
それでも、今までとは違う。俺とカワイの関係が変わったから、今までとは全然違う気がする。
見えないはずの【幸せ】が、見えているような。嬉しいのに苦しくて、だけどそれが楽しいなって思えちゃう。俺は今、初めての感覚に翻弄されそうなくらい浮かれていた。
「ヒト、ずっとニコニコしてる」
「それを言うならカワイだってそうだよ。いつもより表情が分かり易い。あと、尻尾が嬉しそう」
「ん、そうかも。ボク今、なにも隠せそうにない。だって、すごくすごく嬉しいから」
「んんんッ可愛いッ!」
素直って素晴らしい! 部屋に戻ると同時に、俺はカワイの体をガバッと抱き締めた。
「月君と草原君の前だからスキンシップはかなり我慢したけど、そのたった数時間の我慢も相まってすごくすごい! 今の俺、カワイを抱き締めただけで昇天しそう!」
「嬉しいけど、困る。ヒトが昇天しちゃったらボク、悲しい」
「あッ! 召されるッ!」
「どうして?」
心配とか不安とか、そういうネガティブな諸々が消えたわけじゃない。だけど、今くらいポジティブな気持ちだけを考えたっていい気がする。
強引にそう振り切った俺は、とにかくカワイを抱き締めるのに専念した。カワイとの幸福を抱き締めるのに専念したいのだ。
そこで俺は、はたと気付く。今しがた頭の中に描いた後輩二人についてだ。
「それにしても、どうしよう。これって、月君と草原君に報告した方がいいのかな?」
結果はどうであれ、二人は俺のことを心配してくれていた。だったら、こうしてカワイと進展できたことを報告すべきなのかもしれない。
いや、一昨日の来訪はなんだか目的が変わっていたような気もする、けど……い、いやいや! 後輩二人の無垢な善意を疑っちゃいけないよね、うんうん!
俺の背中に腕を回し、俺の腕に尻尾を回しながら。顔を上げたカワイは、俺の独り言じみた質問に答えてくれた。
「二人に対して【報告しなくちゃいけない】って使命感は無いと思う。もし使命感があるとしたら、それは別の相手」
「別の──……あっ!」
カワイの言葉を反芻している、その途中で。俺は素早くカワイと抱擁を解き、物凄く重要なことを思い出した。
「──ゼロ太郎! 俺たち、お付き合い始めました!」
[──あぁはいはいおめでとうございます]
カワイのお母さん──もとい、俺たちの同居人。知っているとしても俺は、ゼロ太郎に改めて【交際宣言】をしたのだった。勿論、土下座のスタイルで。
……なぜか、すごく嫌そうな声を返されたけど。
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