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 なにはともあれ、俺とカワイは特別な関係になったというわけで。ゼロ太郎にチクチクと嫌味を言われて数分後、改めて俺とカワイは向き合っていた。  ちなみに、ゼロ太郎は自主的にスリープモードになったらしい。自分で言っていた。なんだか申し訳ない気もしたけど、ゼロ太郎曰く。 [見せつけられる方がしんどいです、勘弁してください]  らしい。いや本当に幸せ者でごめん!  いやしかし、ゼロ太郎お得意のツンデレ発言に違いない。ここはポジティブに、ゼロ太郎の行動を善意として受け取ろう。 「改めて、これからは恋人として──悪魔的には、つがい? かな? とにかく、特別な間柄としてよろしくお願いいたします」 「うん。これからも、ずっとずっとよろしくね」  カワイと、何度目か分からない抱擁。そのままカワイは、俺を見上げて口を開いた。 「あのね、ヒト。ボク、ヒトの特別になれたら、ずっとずっとしたかったことがある。ずっと、ヒトにしてほしいことがあったんだ」 「えっ、なになにっ? カワイからのおねだりならなんでも嬉しいよ! どんどん言って!」 「──じゃあ言うね。ヒト、ボクにキスして」 「──んぐふッ!」  これは予想外! 俺は呻き声を漏らして、絞られたように苦しい胸を押さえた。  ちょっと、ちょっと待ってほしい。……えっ? 幻聴? 今のって、浅ましい妄想を現実と勘違いしちゃうくらい浮かれた頭が響かせた幻聴かな? 胸を押さえたまま、俺はカワイへの確認作業を始めた。 「えっ、え? キ、キス? カワイ今『キス』って言った?」 「うん、言った。キスして」 「ちょっと待って、破壊力がすごくすごい」  幻聴じゃない。マジで、カワイからキスを強請られている。  俺がああでもないこうでもないと悶えている中、カワイは言葉を続けた。 「ヒトが気付いていたかは分からないけど、ボクはずっとヒトとキスがしたかった。マンションの屋上でヒトと両想いって分かってからずっと、キスのことばかり考えちゃうくらい……ボクは『ヒトとキスがしたい』って思ってる」  不意に、思い出す。それは俺が、酔った勢いと言うか流れでと言うか。あの夜、カワイを同意の上で襲った日のことだ。 『キスは、ヒトの意識がハッキリしてるときにしたい。だから、今はだめ……』  カワイが、そう言っていたことを。  よく見ると、カワイの尖った耳が赤くなっていた。それに、頬も赤らんでいるように見える。  これは冗談じゃなくて、本気で。あのカワイが顔を赤くしてしまうくらい、恥ずかしがりながらも伝えてくれた気持ちなんだ。  ……だったら、俺は応えたい。 「カワイ」  だけど、どこまでなのだろうか。どこまで、本気のキスをしてもいいのだろう。カワイの名前を呼んで、赤らんだ頬に手を添えて、俺は考える。 「カワイ、ちょっと震えてる。大丈夫?」 「う、うん。だ、大丈夫、だよ」 「えぇっと。……目、閉じていいんだよ?」 「えっ。……う、ん」  言うと同時に、カワイは目を閉じた。素直で可愛い。あと、初めて見るカワイのキス待ち顔がすごく可愛くてすごい。語彙力がパァになるくらい、ヤバい。  いつもクールで、滅多に動揺なんてしないのに。そのカワイが、こんなにいっぱいいっぱいなんだ。……こうなっちゃうくらい、カワイの中で俺という存在は大きいんだね。  まざまざと、カワイの気持ちを見せられて。頬に添えた手のひらからも、カワイの緊張を伝えてもらったから。 「好きだよ、カワイ」  俺はカワイの唇に、キスを落とした。

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