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 ちなみに、今回のお話は【ヒトの誕生日】がメインストーリーじゃない。  モチロン、ヒトの誕生日はすごく嬉しい。ハッピー。ボクにとって一番嬉しい日。  でも、今回は【甘い時間】がメインストーリーなんだ。 「ヒト、今日は誕生日。なにか食べたいものはある?」  朝。ヒトを起こしてすぐに、ボクはヒトにそう訊ねた。  寝癖で髪型がボサボサのヒトは眠たそうにしながら、欠伸をしつつ答える。 「ふ、あぁ……。食べたいもの、かぁ~。うぅ~ん……うぅ、ん」 「ヒト、寝ちゃダメ」  ベッドの上で座るヒトは、コクリコクリって頭を揺らしていた。ボクと会話をしてくれているけど、睡魔には勝てないみたい。……睡魔。悪魔のボクよりヒトを魅了するなんて、侮れない。 「ボクが魔術行使の得意な悪魔だったら、存在を消し飛ばすのに」 「えッ。なっ、なんの話ッ? 俺? 俺のことじゃないよねッ?」  あれ? 変なの。ボクの独り言を聞いて、ヒトは目が覚めたみたい。不思議だね。  とにかく、ヒトはシャキッと目覚めてくれたみたい。ボクの肩を掴んで「起きてます、起きてますよ!」と元気に主張をするくらい、シャッキリ。さすがヒト、オンとオフのギャップがすごくすごい男。 [以前私がカワイ君に告げた言葉ではありますが、そういう意味ではありませんよ] 「人間界、まだまだ難しいね」  ゼロタローに心を読まれるのは、慣れてきた気がする。すんなりと会話をしつつ、ボクはやけに不安そうなヒトの両手を握った。 「誕生日にはケーキが必要って聞いたけど、ヒトはケーキがあまり好きじゃないと思って。だから直接、ヒトに希望を訊くことにしたよ」 「気を遣わせちゃってごめんね。だけど、いきなり言われるとパッとは思い付かないなぁ~……」  って言いながら、ヒトは考えてくれている。ボクに手を引かれながら「うぅ~ん」と唸っているのが、その証拠。 「なんだろう。カレーが食べたいかな」 「想像以上に庶民的だね、ヒト」 「いいじゃんカレー! 二人が作ってくれるカレーはすっごくおいしいんだから!」 「それは嬉しい評価」  でも、ただのカレーじゃ特別感が無い。ボクのワガママだけど、それじゃあ【誕生日】って感じがしないから……。 「じゃあ、カツカレーにする」 「おぉっ! いいねいいねっ、カツカレー! 豪華だねぇ~っ」 「うん、決定。マグロのカツカレーにするね」 「ここでまさかの認識の違い」  ヒトも喜んでくれたから、今日の晩ご飯はマグロのカツカレー。いつも以上に張り切って作ろう。ゼロタローが一緒だから大丈夫。  ヒトが後ろで「えっ、スルー? 俺スルーなのっ?」って言っているけど、ボクにはよく分からない。だから、分かる話を振らなくちゃ。 「今日はサッパリするデザートを作ってみたよ。朝から食べても胃に重たくないゼリー」 「色々言いたいことがあったのにカワイの笑顔を前にするとなにも言葉が出てこない! いつもありがとう!」  感謝されちゃった。嬉しい。食卓テーブルのイスに座ったヒトが、ボクの作ったゼリーを早速一口食べてくれる。 「んん! このハチミツとレモンとヨーグルトのゼリー、すっごくおいしい! カワイはご飯だけじゃなくてデザートを作るのも上手だねっ! 自慢の彼氏だよ~っ!」  きっかけは、ヒトがくれたこの言葉。  ……そう。今回のお話は【甘い時間】がテーマ。つまり──。  ──そうだね、デザートだね。 [それは……違うと、思います]  なんでだろう。ゼロタローが独り言を呟いたのは。

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