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8.5 : 3
作った料理をヒトに褒められると、すごく嬉しい。
中でも、デザートを褒められるのが好き。ヒトは甘い物が得意じゃないけど、ボクが作ったものはすごく嬉しそうに食べてくれるから。甘い物が好きなボクは、それがすごく嬉しい。
だけどモチロン、好きな物を押し付けたりはしない。ボクと同じく甘い物を好きになってくれたら嬉しいけど、ムリヤリはダメ。押し付けは良くない。
それでも、好きな物を共有するのは嬉しい。だからボクは、甘さ控えめのデザートを日々研究中。それは、ヒトの誕生日でも同じ。
「いやぁ~、本当にビックリ。マグロのカツカレー、メチャメチャおいしかった。すごく、贅沢……!」
晩ご飯は大成功。ヒトが満足そうで幸せいっぱいな顔をしてくれているから、これ以上ない成功だと思う。ゼロタローに[カワイ君、嬉しそうですね。尻尾がブンブンしています]って言われちゃうくらい、嬉しくなっちゃった。
尻尾の動きを必死に理性で抑えつつ、ボクはイスから立ち上がる。
「誕生日だから、ケーキも作った。でもちゃんと、ヒト仕様。甘さ控えめ」
「ヤッター! カワイとゼロ太郎が作ってくれるデザート、大好きなんだよねっ!」
……どうしよう。尻尾の動き、止められない。家具をなぎ倒さないように気を付けないと。
冷蔵庫まで慎重に進んで、ケーキを用意する。ヒトのそばに戻るまで、気は抜かないようにしなくちゃ。
なんとか慎重に歩いて、尻尾の動きに気を付けて……。ようやく、ヒトのそばまでケーキを運ぶのに成功。
「お待たせ。ウーロン茶のチーズケーキだよ」
「なにそれ食べたことない! 楽しみっ!」
ヒト、子供みたいにはしゃいでる。カワイイ。
「本当に、カワイはなんでも作れるからすごいよね」
「ボクだけの力じゃないよ。ゼロタローが教えてくれるから、ボクにもできているだけ」
「それでも、カワイはすごいよ。いつもありがとう」
「……うん」
さっきまであんなにカワイかったのに、カッコ良くなっちゃうなんて。ヒトは、ズルい。
チーズケーキをテーブルに置くと、頭を撫でられた。嬉しくてまた尻尾が揺れちゃいそうになったけど、抑えなくちゃ。ボクはヒトに向かって頷いてから、自分のイスに戻った。
ヒトは「いただきまぁ~すっ!」って元気な挨拶をしてから、チーズケーキをパクッと一口、豪快に食べてくれる。ヒトの食べっぷりは見ていて嬉しくなるから、好き。
「うんっ、おいしいねっ! 大人っぽい味がするよっ! 最高!」
「っ!」
思わず、尻尾が揺れる。大好きなヒトに褒められたら、ガマンなんてできないよ。
味見の段階でも、ちゃんとおいしかった。いつだって自信はあるけど、それでも空想のヒトに褒めてもらうんじゃなくて現実のヒトに褒めてもらえると、すごく嬉しい。
ヒトはパクパクッて、チーズケーキを食べ進めてくれる。ボクも一緒に、ゼロタローが教えてくれたチーズケーキを食べた。……うん。ゼロタローはすごい。カレーもおいしかったけど、チーズケーキもおいしい。
いつもボクに料理を教えてくれるゼロタローに感謝していると、ヒトが突然、ポンと手を叩いた。
「あっ、そうだ。今日ってさ、俺の誕生日でしょ? だからって言うのも変だけど、カワイにお願いしてもいいかな?」
「うん、いいよ。ヒトのお願いはいつでもなんでも大丈夫」
「ちょっと待って煩悩がすごくすごいことになっちゃうから」
どういう意味だろう? ヒトの言葉は、時々よく分からない。
だけど、ヒトは気を取り直したみたい。一回「コホンッ!」って咳ばらいをしてから、ニコッて笑って──。
「──俺に、あーんして?」
……どうしよう。ボク、知らなかった。
「うん、分かった。……ヒト、あーん」
「あー、んっ! んぅ~っ! 好きな子に食べさせてもらえると喜びとおいしさが倍増するぅ~っ!」
誕生日って、大好きな相手といっぱい仲良くできる日なんだ。
……誕生日って、すごくすごい。ヒトの口にチーズケーキを運びながら、ボクは胸の辺りをドコドコッて慌ただしく震わせちゃった。
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