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 なんとかスマホを返してもらうことに成功した俺は、床に正座したままカワイを見上げた。 「そう言えば今さらなんだけど、悪魔のツノって、触るとなにか意味があったりするの?」  話を変えて、どうにかカワイの気を逸らさなくては。見え見えの作戦だが、果たしてカワイは乗ってくれるだろうか。  そもそも、尻尾の長さに対するカワイの返事を考えるに……カワイからすると関心が無い話題だったかもしれない。一抹の不安を抱きつつ、カワイを見上げ続ける。  しかし意外にも、カワイは俺の想定していなかった返事をくれた。 「意味? うん、あるよ」 「えぇっ! 気になる気になる! 教えて教えてっ!」  話題に乗ってくれただけではなく、なんと意味まであると言うではないか。好奇心をビシビシと刺激された俺は、腰を浮かしつつカワイの答えを待った。  俺の食いつきが嬉しいのか、カワイはさっきまでの怒りを全く感じさせないトーンで答えてくる。 「ツノを触った相手と、生涯添い遂げる」 「──えいっ」 [──主様ッ?]  しっ、しまった! 条件反射のように立ち上がり、あろうことかカワイのツノを再度触ってしまったではないか!  あぁでも、嬉しいなぁ。これで、俺とカワイは魔界的な意味合いでは生涯を添い遂げる契約を──。 「──ウソだよ。意味なんてない。さっきのヒトに対する、ちょっとしたイジワル」 「──ガーンッ!」  いや、そんな気はしていたけどさ! だけど触っちゃうじゃん、あんなこと言われたら! 意外な方法で報復を受けた俺は、カワイのツノを触ったままショックを受ける。  まさか、こんなにユーモアのある仕返しをされるなんて……。ショックは受けているけど、ちょっと嬉しくなってしまう。  それでも、ツノから手を離さなくては。そっと手を下ろして、俺はカワイからの報復を甘んじて噛み締める。  俺を見上げるカワイは、わざとらしくムッとした顔をしていた。だけどなぜか、すぐに優しい微笑みを浮かべたではないか。 「でも、迷わずすぐに触ってくれて嬉しかった」 「……えっ?」  拗ねたような顔は、わざとらしかった。だけどこの笑顔は、思わず出てしまったような……そんな笑顔だ。 「意味なんて無い行為だけど、でも、ボクたちが添い遂げちゃダメってことじゃないと思う」  俺を見上げて微笑むカワイは、どこか照れくさそうな様子を見せながら、言葉を付け足した。 「──添い遂げようね、ヒト」  まるで、天使の囁きみたいな。だけど、どこか小悪魔的な声音で。カワイはそっと、言葉を付け足したのだ。  カワイから愛の籠った言葉を受けた俺は、どうしたかと言うと……。  ──『バターンッ!』と。それはそれは勢いよく、その場に倒れ込んだ。 「あー……。勢い良く倒れ込んだのに、ぜんっぜん痛くないや。……夢か、これは」 [頭を打っていますよ]  痛くない、痛くない。だからこれは、夢だ。だってこんなの、幸せが過ぎるじゃないか。  なんてことを考えていたような、考えていなかったような。その場で気絶をした俺は、前後のことをよく覚えていなかった。

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