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お昼休憩になってすぐ、俺と月君は会社近くのコンビニに向かった。
思えば、近くにコンビニがあることは知っていたけど利用するのは久し振りかも。カワイがお弁当を持たせてくれるようになってからは、来ていなかった気がする。
……あっ、いや、来たか。【不調】の時にお昼ご飯を追加で買ったっけ。でも、それ以来かな?
「センパイはクレープ買わないんスか?」
「俺は帰りに買おうかなって。だから、メニュー表の写真が撮りたかったんだよね」
「そう言えばセンパイ、甘い物が得意じゃないんでしたっけ。でもカワイ君に買って帰るんスね。……愛ッスねぇ~っ」
「よせやい! 事実だけども!」
コンビニで買い物を済ませた後、俺たちはクレープが売っている移動販売車で談笑をしていた。
俺は、メニュー表をカメラでパシャリ。月君は、チョコバナナクレープを購入。その後、行きと同じく俺の車に戻った。
「少しごめんね。カワイに写真とか送るから」
「ゆっくりで大丈夫ッスよ! オレ、クレープ食べてるんで!」
月君に断りを入れて、スマホでカワイ宛てに写真とメッセージを送る。ポチポチ、っと。……よし!
「月君、お待た──……って、えぇッ? ちょっと待って! 月君、クレープを三口で食べた?」
「ウマかったッス!」
「それはなによりだけども!」
もしかして、俺が思っているよりも元気なのかな? いや、違う。たぶんこれ、月君にとっては普通のことなんだ。チョコとかバナナとか生クリームとかがたっぷり入ったクレープを三口で食べるなんて芸当、月君にとってはなんてことないんだね!
でも、月君は笑顔だ。だからなんだか、俺もつられて嬉しくなっちゃうな。
車内で俺たちは、他愛もない話をした。それから事務所に戻り、いつものスペースで昼食を開始。
月君はコンビニで買ったお弁当をふたつ、テーブルの上に置いた。……ひとつではなく、それでいてクレープを食べた後だけども、ふたつだ。
俺は、カワイとゼロ太郎が用意してくれたお弁当をテーブルに置く。それから、お弁当箱の蓋をパカッと開けて……。
「すっ、すごい! カンペキな三色弁当じゃないッスか!」
「だね! すごくすごい! いっそ芸術だ!」
中身に、俺たちはキャッキャとはしゃいでしまった。
一応説明させてもらうと……お弁当箱の右が、緑色。お野菜を千切りにして茹でたものだろう。
真ん中は茶色で、肉そぼろ。絶対においしい。食べなくてもビジュアルで分かる。これは、おいしい。
そして、左が赤色──と言うか、オレンジ色。つまり、人参だ。
「カワイ君って、ホンットにすごいですね……。こんなにキレイな三色弁当、オレ初めて見ました」
「俺も今ビックリしちゃって、言葉が出てこない。ただただ、愛おしい……」
「それはお弁当への感想じゃなくて完全にカワイ君宛ての気持ちッスね」
お弁当箱を開けて、こんなに胸が弾むなんて……。俺の家族が、すごくすごい。
蓋を持ったままジ~ンと感動を噛みしめていると突然、月君がクスッと嬉しそうに笑った。
「オレ、なんか嬉しいッス。センパイがこんなに嬉しそうなの、初めて見る気がするんで」
「えっ? ……そう、かな? 俺って、いつも楽しそうじゃない?」
「それは確かにそうなんスけど、そういうことじゃなくて……」
なんだなんだ、どういうことだ? 怪訝そうに月君を見ると、なぜか月君は嬉しそうな笑顔を返してくれた。
「うまく言えないんスけど、カワイ君のおかげだなって思うんですよね。ホント、感謝ッス」
「月君……」
な、なんだよう。三色弁当とは別の意味で、ジ~ンとしちゃうじゃないか。気恥ずかしいぞ。
だけどその感情は、ちょっぴり照れくさいので表に出さない。俺はどこか誤魔化すように、月君にお弁当を少し分けた。
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