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今日のお夕飯は、鶏肉とブロッコリーをラー油で炒めたおいしい料理。それと、ハムとはんぺんの春巻きだった。しかもデザートには、カフェラテ風味のミルクプリン付き!
カワイ曰く。
「家でプリンを作るなんて、ちょっぴり贅沢だね」
らしい。尻尾が嬉しそうに揺れていたので、こっちまで嬉しくなってしまった。
サラダとスープまでいただき、今日の俺も贅沢すぎるくらい幸せ者だ。お腹もいっぱいで、胸もいっぱい。
つまり、つまり? ……そう。
「──駄目だ、眠い。このままだと、お風呂場で寝ちゃいそう」
ご覧の追着さんが完成だ。
お夕飯を食べ終えた後、俺は食卓テーブルに突っ伏していた。まさに、グデグデだ。
思えば最近、ずーっと上機嫌だった。テンションが高くて、なんと言うかエネルギッシュだった気がする。
その疲労、と言ったら大袈裟な気がするけど。とにかく、そういう蓄積があったのかもしれない。……という、言い訳だね。うん。
食卓テーブルに突っ伏したまま、俺は顔も上げられずにカワイを呼んだ。
「カワイ~。なにか目の覚める話とかないかな~?」
「目の覚める話……」
[驚かせるのが一番かと]
「驚かせる……」
意外にも、ゼロ太郎が俺の提案に協力的じゃないか。確かに、このまま俺が寝ちゃうのはゼロ太郎の存在意義に反するからね。納得だ。
だがしかし、ゼロ太郎が珍しく俺の味方でいてくれるのなら、話は変わってくる。ここは多少、我が儘になっても良いのかもしれない。
「個人的には、ドキドキさせてもらいたいなぁ~。なんて──」
[──頼む側のくせに随分と図々しいですね]
「──主従逆転系人工知能様には言われたくないです」
前言撤回。ゼロ太郎はゼロ太郎じゃないか。
そんな中、カワイはずっと考え込んでいる。俺の望みを叶えつつ、ゼロ太郎のアドバイスも取り入れて……。とかなんとか、きっと考えてくれているのだろう。
カワイのそういうところ、好きだなぁ。真面目で、いい子で、素直で……。俺、本当に素敵な子を好きになったんだなぁ。なんだかヤッパリ、俺は幸せ者だ。
なんて、感謝や幸福を噛みしめていると。どうやらカワイの中で、なにかが整ったらしい。
「ヒト、ジッとしていてね」
とことこ。カワイは椅子に座る俺に近寄ったかと思うと、そのまま俺の耳元に顔を寄せた。
これは……まさか、大声を出したりするんじゃ? そうだよね、カワイにとったら俺よりもゼロ太郎の提案が正解に思え──。
「──愛してるよ、ハニー」
「──ッ!」
大声、ではない。甘くて優しい、囁きだ。
突っ伏していた俺は、思わずテーブルから顔を上げる。すると、誇らしげな表情で俺を見ているカワイとバッチリ目が合ってしまった。
「どう? ボクにドキドキ、してくれた?」
なんて、なんて分かり易いドヤ顔だ。こんなにハッキリと表情が読み取れるカワイは、珍しい。可愛い。格好良かったけど、可愛いぞ。
……そ、そうだ。見惚れている場合じゃない。早く、返事をしなくちゃ。カワイが囁いてくれた側の耳を押さえながら、俺は言葉を必死に捻り出して……。
「──ダ、ダーリン……!」
なんということだ、カワイも男の子だ! 俺は今、完全にメス化してしまったぞ!
目をバッチリと冴えさせて、俺はカワイのポテンシャルを恐れ多くも身をもって実感したのだった。
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