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翌日。俺とカワイは、部屋でまったりと過ごすことにした。
俺は休日だと昼頃に起きるので、実質、休みは半日。それでもカワイは喜んでくれているらしく、起きたばかりの俺を見て微笑みを浮かべてくれた。
「おはよう、ヒト」
「カワイ、おはよう~。なんだか、嬉しそうだね?」
「うん、嬉しい。この時間にもヒトと会えて、お喋りできて、触れる。だから、すごく嬉しい」
「うぐぅッ! 朝から彼氏が尊いッ!」
危うく、気絶と言う名の二度寝をしてしまいそうなほどの破壊力だ。胸を押さえつつ、俺はなんとか体勢を保った。
なんて、なんて嬉しそうな顔で俺を見てくれるのだろう。なんて幸せそうな声で、俺を呼んでくれるのだろうか。
気付けば、今は十二月。北海道の本気を見せる時期。……だが、十二月と言えばなにがある? そう!
「これがラブリマスってやつか!」
「なにそれ?」
[卑しい造語です]
カワイとクリスマスを過ごせたら、すっごく幸せだろうなぁ~っ。……とは思ったものの、俺はクリスマスを【世間一般が考えるクリスマス】として過ごした経験が無いので、漠然としたイメージしか持っていないのだが。
[主様のお言葉に賛同するのは不服ですが、確かにもうすぐクリスマスですね。今の内に、豪勢な献立を考えておきましょう]
「一言多い気がするけど、それは楽しみだなぁっ!」
俺とゼロ太郎の会話を聴き、カワイは置いてけぼりだろうか。心配になった俺は、俺と天井──ゼロ太郎を交互に見ていたカワイに目を向ける。
だが意外にも、カワイは疑問符を浮かべている様子ではなく……。
「知ってる、クリスマス。スーパーでハデな広告が沢山あるから、人間界ではすごく有名なイベントなんだよね」
「んんんッ! 賢いッ! 正解ッ!」
誇らし気に口角を上げているカワイに、グッと親指を立てて見せる。
「だけど、具体的に【なにをするイベント】なのかは知らない」
「おいしいご飯を食べて、特別な相手だったり仲良し同士だったりでキャッキャするイベントかなぁ」
「じゃあボクはおいしい料理を作って、ヒトとゼロタローと一緒にいたらいいんだね。……ん? それだと、いつもと変わらない気がする」
「えっ! じゃあ、毎日がクリスマスってことじゃん!」
[違います]
お互いに指を指し合って『大発見!』と伝え合うも、ゼロ太郎がピシャリと否定。そうか、違うのか……。
世間がクリスマスで浮足立っているから、俺も『クリスマスはすごくすごい日!』って印象を持っているけれど、実際そこには俺が納得できるような根拠はないのか? なぜだか、ゲシュタルト崩壊でもしているような気分だ。
「クリスマスは、もう少し調べておく。当日は、いつも以上にすごくすごい料理を作るね。だけど、今は……」
俺がクリスマスに思いを馳せていると、不意に。
──ピト。からの、ギュッ。カワイが俺にくっつき、それから俺の体に両腕を回したではないか。
「ヒトと、キャッキャしたい。だから、ご飯にしよう?」
「~ッ! カワイ! 可愛すぎるよ~ッ!」
クリスマスはクリスマスではしゃぐとして、今日は今日ではしゃごう! 俺にピッタリとくっついたカワイを抱き締めて、俺は寝起きとは思えない声量で叫んだ。
……勿論、すぐにゼロ太郎から叱られたけど。
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