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お互いの頭を撫で合った、その翌日。
「ベッドの温もりに、カーテン越しに感じる太陽の暖かさ。……そして、腕の中のカワイ……。ここは俺にとっての天国だ~っ」
珍しく、俺が早起きをした。カワイが朝食を作り始めるよりも早く起きられたのだ。
おかげさまで、カワイは俺の腕の中。なんて幸福な目覚めだろう。毎朝堪能したいシチュエーションだ。……それは、俺の起床時間次第か。すみません。
「ヒトの体温で、温かい」
おっと。俺のカワイが可愛いことを言っているぞ。思わず、カワイの体を抱き締める腕に力が籠ってしまう。
カワイはどことなく嬉しそうな様子を見せつつ、俺の顔を覗く。
「ヒトがこんな時間に起きるの、珍しいね」
「そうだねぇ~。このまま二度寝しちゃおうかなぁ~。……カワイと一緒に」
「嬉しい提案だけど、それはできない。やりたいことが沢山だから」
「だよねぇ~……」
いつもありがとう。そして、ごめんなさい。俺は起き上がれそうにありません。
家庭的で素敵で無敵なカワイに感謝を募らせつつ、俺はカワイに回した腕の力を少し抜いた。
「ボクは起きるね。ヒトは? どうする?」
「二度寝します……。ふ、わぁ~……」
カワイが腕からいなくなり、その拍子に毛布が一瞬だけど剥がれてしまう。うぅ、温もりが逃げていく。
温もり、が……。
「……ぐぅ」
「ヒト」
それでもできてしまう、二度寝。俺はカワイがベッドから降りたことを認識できたような、できていないような……。そんな中で、目を閉じた。
それから、どのくらい時間が経っただろう。ユサユサと、体を揺らされる感覚に気付いた。
「ヒト、起きて」
「起きてる……」
[主様、起きてください]
「起きてる……」
どうやら、起床時間になったらしい。俺は毛布をガッチリと掴みながら、家族二人の声に返事をする。
寝た記憶はないけど、確実に寝ていた。なのに、全然寝足りない。これ如何に。無意識と意識の狭間を彷徨いながら、しかしウトウトとし始めてしまう。
すると、カワイの声が再度聞こえた。
「ヒトが起きないなら、ボクも二度寝しようかな」
「おぉ、おぉ~……。隣、空いてるよぉ~……」
「うん」
ベッドの軋む音が鳴り、カワイがベッドに乗ったのだと気付く。それでも俺の目蓋は上がってくれないので、ただただカワイが横に寝転がってくれるのを待つ。
……待っていた、のだが──。
「えっ? カ、カワイ……?」
あろうことかカワイは、俺の【隣】ではなく【上】に乗ったではないか。
俺の上に乗ったカワイは、ジッと俺を見下ろしている。俺は身じろぐこともできないまま、カワイを見上げてしまった。
「えっ、あの、隣……」
「起きる?」
「いやあのっ、えーっと。……別のところが起きちゃう、かも」
「……? ベツノトコロって、どこ?」
「ごめんなさい、すみません、健全に起きさせていただきたく存じます」
「うん、分かったよ」
小首を傾げつつ、カワイは俺から降りる。
「早く来てね。ご飯、冷めちゃうから」
そんな言葉を残して、カワイはそのまま寝室から去った。
残された、俺はと言うと……。
[──朝からあのように低俗な発言をされるとは……。主様も、落ちるところまで落ちたものですね]
「──あぁ~ッ! あーッ! 聞こえないなぁーッ!」
言うまでもなく、ゼロ太郎に叱責されたのであった。
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