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起き上がった俺は、ポリポリと自身の頬を掻いた。そして、カワイの言葉を思い出す。
『ご飯、冷めちゃう』かぁ。……はぁ~っ、カワイ優しい。いいお嫁さんになるだろうなぁ。
「まぁ、カワイは俺の嫁になるんだけどね」
[カワイ君を主様の嫁にはさせられません]
「そっかぁ。じゃあ、俺がカワイの嫁になるしかないかぁ~」
[却下です]
「えぇっ? なんかゼロ太郎、俺に冷たくないかっ?」
[カワイ君に優しい、と言っていただきたいです。主様のような、人間としてはポンコツのくせにヘンタイとしては極まった男に、うちのカワイ君は渡せません]
「それはないぜお義母さん!」
[お義母さんはやめてください]
などと、言い合いをしていると……。
「ヒト、遅い」
「あぁッ! ごっ、ごめんなさいッ!」
ご機嫌斜めなカワイが、寝室にヒョコッと姿を現した。苛立たし気に、尻尾がペシペシとフローリングを叩くオプション付きだ。
「早くご飯を食べてほしい。今日の朝はトウモロコシとベーコンのオムレツだから、冷めたらおいしさ半減だよ」
「それは困る! すぐに行くね!」
「ちなみに、ベーコンがなかったらウィンナーでも代用可能だよ。作り方はとってもカンタン。先ずは──」
「えっ! あっ、えっとえっと! その豆知識はまた後で!」
ここでカワイの話を聴いたら最後、ゼロ太郎に『一度作り方を教わったのだから、作れるようになって当然だろう』と思われてしまう! ……いや、思われないか。思われないな、うん。
まぁ、それはそれとして。俺はカワイと一緒に寝室から出て、リビングに向かった。
そこで、日めくりのカレンダーを見て気付く。……そっか。もうすぐ、クリスマスなんだ。
十二月だなぁとは思っていたけど、気付けばクリスマスかぁ。だからと言って特になにがあるわけではないと思うけど、だけど、カワイにとって初めてのクリスマスだ。なにか、なにかをしてあげたいな。
なにか……。
「──そうだ、コタツを買おう!」
[──急ですね]
ピコン! そう。これは、唐突な思い付きだ。
俺の前を歩いていたカワイが、クルッと俺を振り返る。
「コタツ? って、なに?」
「ゼロ太郎、画像を!」
[カワイ君のためですからね]
宙に移された、コタツの画像。実際にコタツでまったりしている人たちの写真を見て、カワイは「おぉー」と感嘆の声を上げる。
「ヒト、好きそう」
「最初に出る感想がそれなんだね。照れちゃうよ」
確かに、俺は好きそうだけど。むしろ、部屋にあったら絶対に好きだけども。俺の実態を知っている相手からすると『なんで部屋に無いの?』って言われそうだけど!
「いい機会だから、注文しちゃおう! 今買えばクリスマスに間に合うと思うし!」
「コタツ、ボクも気になる」
[かしこまりました。サイズ等は私の方で計算し、最適な物を注文いたします]
「うんうん。今の発言は確実に【カワイがコタツを欲しがったから】だね」
いいけどさ、いいけどね! カワイが「やったー」とクールなテンションのまま喜んでいるから、それだけで俺も嬉しいよ!
それから、俺が朝食を食べ終えた頃。俺のスマホに【ご注文が完了いたしました】といった内容のメールが届いていたのは、言うまでもない。
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