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──なにはともあれ、コタツの導入が完了だ!
ゼロ太郎に頼んでコタツを注文してもらった数日後、俺とカワイは二人でコタツの設置を終わらせた。
「これが、コタツ……」
「すごくすごいよね。起きたまま毛布に包まれるような、寛ぎの最上級みたいなこの……すごく、すごい物」
「これ、入ったら出られない気がする。もしかして、体を固定する魔術が施された呪物……?」
「そうだね、カワイの言っていることはあながち間違いではないよ」
[──馬鹿なことをしていないで、早く入ったらどうですか?]
ゼロ太郎の言う通りだ。ちょっと、カワイとキャッキャしすぎちゃったね。それじゃあ……コホン!
「先ずはカワイ、どうぞ! 好きにくつろいでいいからねっ!」
「……好きに?」
コタツに入るよう勧めると、カワイは俺を見上げて小首を傾げた。それから、しばしの思考……かな? カワイは黙ったままなにかを考え込み、それから再度、俺を見上げた。
カワイ、どうしたんだろう? 俺がそう思ったのは、僅かの間だけ。
「じゃあ、ヒト。ココに座って?」
「ん? うん、いいけど……カワイ、遠慮してる?」
「まぁまぁ」
よく分からないけど、カワイに頼まれた通り、コタツに足を突っ込んで座ってみる。
おぉ! 分かってはいたけど、これはいい物だ! ポカポカするぞ! 想像以上だ!
などと、俺がコタツという文明の利器に感激していると──。
「えッ。カ、カワイッ?」
──カワイが、俺の膝の上にちょこんと座ったではないか!
いったい全体、どういうことだろうっ? 突然のご褒美タイムに、俺の体はビシッと硬化してしまった。
しかし、当のカワイはと言うと。
「好きにしてる」
とのことらしい。
……そうか、なるほど。俺が伝えた言葉を、カワイはそう解釈したのか。なるほど、なるほどね、なるほど……。
──あぁもうッ! 可愛いじゃないかッ! こんなの悶絶ものだよッ!
などと叫び出せば、すぐ近くにあるカワイの耳がキーンとしてしまう。なので俺は、必死に言葉を呑み込んだ。それはもう、喉から『ゴクッ』という音が鳴るほど必死に。
カワイはこの状況にご満悦なのか、ちょっぴり弾んだ声音で、だけど普段通りの雑談を俺に振った。
「こういうの好きそうなのに、どうしてヒトは今までコタツを買わなかったの?」
「いや~、前からゼロ太郎にオススメされてはいたんだけどねぇ……」
なので俺も、努めて平静さを装いながら返事をする。どさくさ紛れに、カワイの細い体をギュムッと抱き締めながら。
「カワイが来る前までの俺は【娯楽】ってなると、イコール【ベッド】だったからさ。部屋にいる間は、基本的にベッドの上で過ごしてたって感じ」
「そっか。コタツを買っても、ヒトは掃除とかの管理ができないもんね」
「今俺、そこまで言ったかな?」
事実だけども。カワイ、ヤッパリ少しずつゼロ太郎に似てきたな? と言うかカワイ、もしかしてこの状態にあまりドキドキしてくれてない感じ?
ここは少し、カワイにもドキドキしてもらいたい。恋人同士がくっついているのだから、照れたカワイを見たいと思うのは男心ならぬ俺心というやつだ。
思い付いたのなら即、実行。俺は手を動かして、カワイの顎に指を添えた。
「カワイ、ちょっといい?」
「うん? いいけど、どうして顎を持ち上げるの?」
まさか、この行為の理由を訊ねられるとは。言い訳を考えていなかった俺は、思わず閉口してしまった。
ドキドキさせたかったけど、これは露骨すぎて失敗かな? 俺がそう思ったのと、ほぼ同時。
「──えっ? どうして、ジッとボクを見つめるの? ……その。ドキドキしちゃうから、質問を正確に聴けなくなっちゃう」
……。
…………。
──コタツ、最高じゃん。照れたカワイになにも言葉を返せない俺は、ただただ深く、そう思った。
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