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9 : 25 微*
夕食や入浴などを済ませた後、ゼロ太郎には申し訳ないけれど、スリープモードに入ってもらった。
さすがに、お互い困るじゃないか。俺とカワイはこれからすることを誰かに見られたくないし、ゼロ太郎だって見たくないはずだ。だから、ゼロ太郎はなにも言わないでいてくれた。
就寝準備を終えたかのように、俺とカワイは寝室に向かう。それから、どちらからともなくキスをした。
「カワイ、好きだよ」
「うん。ボクも、ヒトが好き」
ベッドにカワイをゆっくりと押し倒して、着たばかりの寝間着を脱がす。そうすると、俺の眼前にはカワイの素肌が晒された。
……分かってはいたけど、悪魔でもココは人間の男の子と同じなんだな。こうしてカワイの体を凝視するのは二度目だけど、多少なりとも感慨のようなものが浮かぶ。
すると、カワイが自分の膝をモジモジと擦り合わせ始めた。
「ヒト、そんなにジッと見られるのは、さすがに少し恥ずかしい」
「あっ、ごめんっ! 嫌だったよね、ごめんね!」
「え、っと。……イヤじゃない、けど」
俺だって、カワイにジッと裸体を見つめられたら恥ずかしく感じるだろう。それなのに自分だけカワイの体を見つめ続けて……下心を抑制できなかった己が、ただただ情けない。
まるで、前途多難。そう思いかけた俺の鼓膜を、カワイの声が優しく揺さぶった。
「……うん。いい、よ」
えっ? カワイ、今、なんて──。
「──ヒト、触って。もっと、ボクを見て」
そう言い、カワイは擦り合わせていた膝を離す。脚を開いて、俺に全てを見せてくれるかのように。
とても、可愛い。恥じらうカワイを見下ろして、俺はそう思う。
……それと同じくらい強く、俺の中でなにかのスイッチが入ってしまった。
「じゃあ、カワイの尻尾を俺の腕に絡めて?」
「えっ? ……こう?」
素直なカワイは、意味が分からない中でも俺の言うことを聞いてくれる。お願いされた通りに尻尾を動かし、俺の腕にシュルリと絡めてくれたのだ。
「うん、そう。上手だね。そのまま、俺の唇を尻尾の先でなぞってみて?」
「え、っ。……ちょっと、恥ずかしい」
「だよね。そう言うと思って、お願いしてるから」
「ヒト、イジワルモードだ……」
カワイの頬が、ぷくっと膨れた。それを見て、俺は笑みを浮かべてしまう。
「あははっ。そうだね、今の俺はちょっと意地悪かも。でも、俺のことをいやらしく誘うカワイが見たいなぁって。……駄目かな?」
「……っ」
カワイの顔が、さらに赤くなる。……それから、そろっと控えめな速度で、カワイの尻尾が動いた。
俺の唇を、カワイの尻尾がそっとなぞる。
「──シて?」
ヤバい、ちょっと泣きそうなくらい動揺してしまった。俺は込み上げる様々な感情をグッと押さえ込んで、カワイの体を強く抱き締める。
「カワイが『やだ』って言ってもやめないよって言いたいけど、正直、カワイに『やだ』って言われたら絶対にやめてあげちゃう俺がいる」
「ボク、ヒトにされてイヤなことなんてないよ?」
「なんだか、俺だけドキドキしてる感じがするなぁ。カワイ、もしかして意外と余裕?」
……なんて、そんなことはないよね。分かっているのにこんなことを言うなんて、俺はヤッパリ意地悪だ。
「ヒトが思っているよりも、ずっとずっと、ボクはドキドキしてるよ」
カワイの顔は赤くなっていて、俺の唇を撫でていた尻尾は今、届く範囲で俺の体をなぞっているのだから。
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