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 行為を終えた俺たちは、汗を流すためにもう一度浴室に向かった。  いつもはゼロ太郎ストップが入ったり、タイミングが合わなかったりで【一緒にお風呂に入る】ということができていない。  だけど、今日はいいだろう。自分で言ってしまうのも照れくさいが、背中を洗い合う以上のことだってしたのだから。  かと言って、俺たちのなにが変わったわけではない。俺とカワイはのんびりまったりと、お風呂を楽しんだ。  お風呂上がりに、お互いの髪をドライヤーで乾かして……。再度、就寝準備がバッチリだ。  寝室に戻って、俺たちは健全な意味でベッドイン。俺はカワイのサラサラヘアーを撫でて、微笑んでしまった。 「そろそろ寝よっか」 「寝よっか」  おっと、カワイが俺の口調を真似したぞ。可愛いなぁ。癒しをくれたお礼に、カワイの頬を撫でよう。 「ふふっ、くすぐったい。でも、嬉しい」  カワイはご満悦だ。この笑顔が見られる俺は幸せ者だなぁ~。  ……本当に、幸せ者だ。こんなに嬉しくて、幸せで、尊い気持ちを貰えるなんて。 「あのね、ヒト。ボク、今日はすごく幸せ。ヒトと出会ってからずっとずっと幸せだったけど、今日が一番幸せ」 「カワイ……。……うん、俺もだよ」  ずっと、欲しいものがあった。知っての通り、俺は【家族】に強い憧れがあったのだ。  だけど、きっと【家族】は結果論だった。確かに【家族】が欲しかったのは事実だけど、そう思う根拠や理由を紐解いていくと……俺が欲しがっているものは、もっともっと単純なものだったんじゃないかと思う。  俺はずっと、無償の愛が欲しかったのかもしれない。そして俺は、俺からの無償の愛を誰かに受け止めてほしかったのだ。  母親のことは、愛していた。俺なりに一生懸命愛して、いつか愛されると信じていたのだ。  それが叶わないと知って。世間一般が思い描く【両親と子供がいる普遍的な家族】を俺が築いてはいけないと知って、この願望を捨てるしかなかった。  もう心の片隅で描く機会も減っていた矢先に、俺はゼロ太郎と出会って……そして、君に出会ったんだ。  幸せは、目に見えない。だから、近付くことも手で掴むこともできないものだ。そんなの、当たり前のように分かっている。  それでも、手を伸ばせば触れられる距離に君がいるから。だから俺は、今日もヘラリと笑顔を浮かべられるのだ。 「好きだよ、カワイ。大好き」  少し、ポエミーだったかな。らしくなかったかも。  ……まぁでも、今日くらいはね。今日くらいは、こんな俺でもいいじゃないか。 「ボクも大好き」  だって、こんなに優しい声と表情で返事があるんだから。カワイの頭を撫でて、俺は「ありがとう」と笑顔を返した。 「そうだ。当日からは過ぎちゃうけど、なにか欲しい物ってある? クリスマスプレゼントってことで、カワイになにか渡したいな」 「ヒトが欲しい」 「嬉しい! でも俺、もうカワイのものだからなぁ~。これ以上はあげられないよ?」 「じゃあ、思い付かないかも」  カワイは俺との距離をさらに縮めて、俺の胸に額をグリグリッと寄せる。 「他にはなにも要らない。ボクは、ヒトだけが欲しいから」  えぇ~っ、可愛いんだけど~っ? 微笑まれた瞬間にまた恋に落ちちゃったよ~! 思わず、心がトキメキ状態な乙女になってしまったぞ! 喜びのあまり、カワイのことをムギュギューッと強く抱き締めてしまった。  それでも、ケーキを買ってこようかな。……いや、待った。ゼロ太郎が前に『献立を考える』って言っていたから、もしかするとケーキを作ってくれるかもしれない。  初めて、恋人と過ごすクリスマス。周りが浮足立つほどの感慨は無いにしても、プレゼントは用意したい。カワイを抱き締めたまま、俺はうぅんと悩む。  ……これもある意味、贅沢者だよな。なんて、少し浮かれながら。

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