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 ゼロ太郎さんが心配で堪らないご様子のカワイさんを、追着さんがそっと回収したっす。 「すみません、大家さん。カワイ、昨日の夜からすごく不安そうにしていて」  なるほど、合点がいったっすよ。ご用意してくれた抹茶チーズケーキは【不安な気持ちを紛らわせる】という意味もあったんすね?  追着さんに抱っこされたカワイさんを見ていると、なんだか悪いことをしている気にもなってくるっす。なのでジブンは、これ以上カワイさんを不安にさせないためにも、明るく返事をするっすよ。 「いやぁ、それくらいゼロ太郎さんのことを想っているってことじゃないっすか。感動的なお話っすね~。カワイさんの反応、ジブンは嬉しいっすよ」  おやおや? カワイさんの尻尾が左右に触れているっすね。どういう感情なんでしょ? 落ち着きがなさそうなので、これは【不安】? それとも昨晩の様子を暴露された【狼狽え】っすかね? 情報が不足しているので、断定はできないっす。  それにしても……機械もそうっすけど、ヤッパリ未知のものは面白いっすね。【悪魔】という存在も、ジブンにとっては興味の対象っす。  まぁ、そんなことをポロッと零せば最後。カワイさんは別の意味で不安を抱いてしまいそうなので、閉口しておきましょっか。 「ゼロタロー、大丈夫? 死なない?」 [カワイ君はいったい私のメンテナンスをなんだと思っているのでしょうか] 「大丈夫っすよぉ~。死なないために、こうして定期的に点検を実施しているんすから」 [オーナー、申し訳ございません。カワイ君の不安をほんのりと撫でるような発言は控えていただけませんか]  なかなかどうして、ゼロ太郎さんは超いい返しをするっすね。  どの部屋の人工知能にも、ある程度の個性みたいなものは発生していくっす。契約者──つまり、主人の性格や生活態度によってより好ましいパートナーになるための進化っすね。  ですが、ゼロ太郎さんはその【個性】が他の人工知能よりも特出している気がするっす。他の人工知能との根本的な違いなんて、当然ながら無いというのに。  つまりそれは、ゼロ太郎さんだけが理由ではないということっすね。となれば当然、ゼロ太郎さんが他の人工知能と違う理由は……。 「なにか俺にもできることはありますか? 手、お貸しできますよ」  追着さん、あなたっすよね。  だけど、追着さんは【悪魔と人間のハーフ】ということ以外は、他の人間と違いは無いはず。無論それは、表面的な意味合いで。  それなら、もっと時間をかけて研究させていただけたら? 思い付くと同時に、ジブンは超真顔で追着さんを見上げてしまったっす。 「──ちなみに、返却期限はいつっすか?」 「──予想の斜め上な返し」  なのでバッチリ、ジブンの返しにドン引きする追着さんが見えてしまったっすよ。いやはや、面目ないっすね~。これはある意味、職業病?  ……さて、と。さすがにそろそろ、本腰を入れて点検をしなくては。長居するとカワイさんの不安を増進させてしまうかもしれないっすからね。  ということで、追着さんへの好奇心が無くなったわけではないっすけど、ジブンは作業に戻って──。 「……ところで、エツ」 「はいはい、なんすか~?」 「──ニンゲンドックって、なに?」 「──追着さーんっ。カワイさんのお相手、バトンタッチお願いしまーっす」  戻る前に、カワイさんには別のお部屋にご退場いただいた方がいいのかもしれないっす。カワイさんご自身と、ジブンのために。

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