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さすがに疲弊っすよ、疲弊。ジブンはズゥンと落ち込んで、テーブルに突っ伏してしまったっす。
見るからに疲れ切っているジブンを見て、追着さんはなにかを思ってくれたご様子。少しオロオロとした雰囲気で、それでもジブンに温かい言葉を贈ってくれたっす。
「大丈夫ですよ、大家さん。俺は自分の趣味を丸出しにする精神、とっても素敵だと思います」
「追着さん……!」
絶妙に慰めっぽくない言葉っすけど、ポジティブに解釈しましょう。ジブンは顔を上げて追着さんを見て、それから。……それから、カワイさんをチラリ。
「……エツ? どうしたの?」
カワイさんの、お召し物。おそらくこれは十中八九、追着さんの趣味が反映されている装いでしょうね。
つまりこの、生脚や太腿は……。
……あー。
「──このモヤモヤは、そう。セクハラの悪辣さに関して云々語られた後で『でも俺のはスキンシップだから』って言われたような……そんな感じのモヤモヤに似ているっすね」
「──この短時間でどうしてそんなに複雑な感情をっ?」
ジブンの呟きを受けて、すかさず追着さんのスマホが振動。
[主様のそれが【スキンシップ】で通るのなら、警察の仕事は減りますね。……という意味ですよ]
「ちょっ、ゼロ太郎っ?」
たった数秒で、ジブンと追着さんの立場が逆転っす。ほんのりと申し訳ないっすね。謝らないっすけど。
するとどういうわけか、おそらく話の弾みというもの。ゼロ太郎さんは続けて、追着さんにこう言ったっす。
[主様は理想が高いのでは?]
「どうして突然その疑問を抱いたのかは分からないけど、なるほど。理想か」
ジッ。今度は追着さんが突然、カワイさんを見つめたっす。
「いつもカワイを見ているからかな? 最近、カワイ以外にときめいた記憶がないや」
おう、っふ~。ジブンとんーちゃんがいるというのに、サラリと言い切りました。聞いているこっちが照れてしまうっすよ。
カワイさんは「そうなんだ」とクールな相槌。それに加えて表情が変わっていない気がするっすけど……。でも、追着さんには違いが分かるんすかね?
もしかして。カワイさんはズバリ、絶賛照れているでしょうか? もしもそうなのだとしたら、なかなかどうして可愛らしいクーデレさんじゃないっすか。
「じゃあ、ボクに会う前は誰にときめいたの?」
んんっ? なんだか、ジブンの想定と違う方向にお二人の会話が進んでいるような……?
「ヒトがときめいた人間の名前と、住所。ここに書いて」
「あのぉ~、カワイさんや? そんなものを知って、いったいどうするのでしょうか?」
「──全員消す」
「「──クーデレかと思いきや突然のヤンデレ化」」
思わず追着さんと声を揃えてしまうほどの衝撃。これが、悪魔という種族の本質っすか?
[いえ、カワイ君が特殊なだけです]
「ゼロ太郎さんはバンバン心を読んでくるっすね。素晴らしいっす」
なんて軽口を打ってみたっすけど、空気は依然として張り詰めたまま。ジブンと追着さんは打ち合わせをしたわけでもないのに、似たような強張った顔しかできなかったっす。
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