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 いけないっすよ。このままだと、誰一人として幸せになれない空間が出来上がってしまうに違いないっす。  そう感じ取ったのは、きっとジブンと追着さんだけ。しかし意外にも、会話の流れを変えたのはカワイさんでした。 「もしかして、ゼロタローにも体を作れる?」  まさに、渡りに船。全力で乗るっすよ!  ということで、若干の前のめり。カワイさんの疑問をガシッと拾い上げるっす。 「できるっすよ。そして、超いいタイミングの話題っすね。んーちゃん、例の物を」 [承諾。お待ちくださいませ]  ジブンのそばに立っていたんーちゃんが、すぐさま移動。そして、ジブンの部屋から一冊の資料を持ってきてくれたっす。 「実は丁度、今回の定期点検を終えた契約者さんにお渡ししている資料があってですねぇ~。えーっと、確かこのパンフレットのどこかに……」  どのページに詳細を記載したか、うっかり度忘れ。ジブンがモタモタしていると、んーちゃんのフォローが入るっす。 [提供。追着様、こちらのページになります] 「さすがんーちゃん! 愛してるっすよぉ~っ!」  んーちゃんが一度ジブンから資料を取り、追着さんに見せたいページを開いてくれたっすね。そのまま資料を受け取って、今度はジブンが追着さんに渡すっすよ。  追着さんは資料を受け取って、開かれたページを見つめたっす。 「これって、人工知能用のボディカタログ?」 「そんな機械相手みたいな言い方やめてくださいよ~。まぁでも、そんなところっす」  追着さんに見せているのは、料金表が記載されたページ。ジブンはそのページを見ながら、説明を続けたっす。 「多少値は張るっすけどね。でも『ご希望に沿ったお体をお作りしますよ』って話を今、マンションの契約者さんに順番でしているところだったんすよ」 「そうだったんですね」 「ヒト、ボクも見たい」 「いいよ。一緒に見ようか」  椅子を近付けて、お二人は一冊の資料を仲良く見ているっすね。……予備のカタログはあるんすけど、さすがにそれを伝えるのは無粋っすか? 閉口、閉口っと。  追着さんとカワイさんは料金表のページから、実際にジブンがご用意できる型についての説明が書かれたページに移動。そして、感想を口にしてくれたっす。 「へぇ~? 人型だけじゃなくて、動物の型も作ってくれるんだ?」 「タヌキ型の二等身青色ボディも作成可能っすよ」 「いやあの、大家さん? あれはタヌキじゃなくて猫なのでは?」 「──ネコ?」 「──違う、ごめん、そうじゃないんだよカワイ」  ひっ! 今っ、今、空気がピリッとしたっす! もしかして、カワイさんの前で【猫】は禁句ってことっすかね? 覚えておきましょっと……。 「えぇっと。……ま、まぁ、あれっすよ? 作る作らないのお返事は今すぐじゃなくて大丈夫っすから。その資料は差し上げますので、持ち帰って検討いただいてどうぞっす」 「そう、ですね……」  パラ、パラ。ページを何度か捲った後、追着さんは資料から顔を上げたっす。  そして、しっかりとジブンの目を見て。 「──だけど、うちはいいかな。こちらは遠慮させていただきます」  告げられた追着さんの答えは、その眼差しと同じ。実に、ハッキリとしたものだったっす。

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