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 追着さんの答えは、どうやらカワイさんにとって予想外だったみたいっすね。ジブンやんーちゃん以上に、追着さんに詰め寄ったんすから。 「どうして? ゼロタローに体ができたら、もっともっと三人でできることが増えると思うよ? サンマとか」 「サンマ? ……もしかして【三麻】のこと? えっ、カワイ、麻雀できるのっ?」 「遊びだけじゃなくて、他にも沢山色々できることがあると思う。だから『悪い話じゃないな』って、ボクは思うよ」 「三麻はスルー? いやでも、あー、うん。体があることでのメリットって言うか、利便性はね。分かってはいるんだけど……」  カワイさんに対して追着さんはどこか、言い淀むような口ごもり方をしているっす。  それから、慎重に。どこか丁寧に、追着さんは言葉を紡ぎ出したっす。 「二人暮らしの時──カワイが来る前なら、きっと俺たちは喉から手が出るほど【こういう形の繋がり】を欲しがったと思う。それはね、事実だから否定しないよ」  二人暮らし、ということは……追着さんが越してきたばかりの頃、ってことっすよね。  確かに、あの頃は……。思い出してから堪らず、ジブンは視線を落としてしまったっす。  初対面の相手に思うような感想ではないと分かってはいるっすけど、あの頃の追着さんは見ていられなかったっすからね。  今にも折れてしまいそうな、まるで冬の枝のような人でした。だけど追着さんは、まるで使命感のような張り詰め方を感じさせながら、そうすることでギリギリ折れずにいたような……。まさに、危ういところに立っていたように見えたっすね。  それなら、と。カワイさんは思ったのかもしれないっす。だからこそ、そんなカワイさんの考えを読み取ったのかもしれません。 「でも、今は【今の形】がいいんだ。俺と、カワイと、実体を持たないゼロ太郎。俺は【今の三人】がいいんだよ。きっと、ゼロ太郎も同じ気持ちだと思うな」  追着さんはそう言って、カワイさんの頭を撫でたんすから。  そして意外なことに、追着さんのスマホからも追着さんのご意見に賛同する声が鳴ったっす。 [そうですね。ヒューマノイドユニットは大変便利だとは思いますが、私には不要です] 「ゼロタローも、そう思うの? 本心? それとも、お金の心配からの配慮?」 [料金云々を抜いた、私の意見です]  迷いがなくて、ハッキリとした答え。カワイさんに対して、ゼロ太郎さんは即答したっす。  なんだか、ちょっぴり感動的──。 [──実体を持ってしまっては、なにをするにもお金がかかりますからね。どこに行くにも【大人一人分】の請求が発生してしまいます] 「──なるほど。さすがゼロタロー」 「──俺の思いとはだいぶ違う理由なんだけど!」  えーっと……感動的、なんすかね? このお三方は不思議な関係性っす。  とにもかくにも、話はまとまったご様子。ジブンはウンウンと頷いて、追着さんに視線を向けたっす。 「なるほどっすね。……分かりました! それじゃあ、追着さんのお宅には不要ということで」 「すみません、大家さん。折角ご提案いただいたのに、こんな答えで」 「いいんすよ。お値段が理由で断られるよりも、断然嬉しいっす」  実体が無くても、強い絆が構築されている。それをこんなに見せつけられたなら、ゼロ太郎さんを発明したジブンとしては文句なんて出てくるはずがないんすから。  ……勿論、それは言わないっすけどね。さすがに照れくさいっすからっ。

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