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10章【未熟な社畜は知りませんでした】 1
毎日が満たされていて、だけど不思議なことに、褪せることなく『毎日が幸せだ』と実感している。俺の日常は、ゼロ太郎とカワイのおかげで彩りいっぱいだ。
そう。まるで、今日の朝食──キャベツとトマトの浅漬け風サラダのように!
[なんてコメントに困る感想でしょう]
「いつもありがとうってことだよ、ゼロ太郎」
安定の読心術で会話をするゼロ太郎に対し、カワイは小首を傾げている。そんなところも愛おしい。今日も俺のカワイは可愛いのだ。
可愛いカワイを見ていると、心が穏やかになる。この感覚は……そう。眠る前の、落ち着いた心のようで。
「ぐぅ」
「ゼロタロー、どうしよう。ヒトが満足そうな笑顔でボクを見た後、箸を握ったまま眠っちゃった」
[叩き起こしましょう]
思わず、二度寝をしかけてしまう。そのくらい、カワイの姿は俺の心を穏やかにしてくれたのだ。……えっ。『責任転嫁』だって? それは違──わ、ない、かも!
ちなみにカワイはと言うと、ゼロ太郎の提案を受けて思い付いたことがあるようだ。俺に近付き、俺の名前を呼び始めたのだから。
「ヒト、ヒト」
カワイが、俺の右肩を叩いている。なるほど。ゼロ太郎の『叩き起こす』をそう解釈したのか。なんて優しい子だろう。ますます好きになってしまったぞ。
まぁしかし、それはそれ。俺は瞳を閉じたまま、頭を動かした。
「ん~……。そっちより、反対側の肩が凝ってる? かも?」
「違うよ、ヒト。肩叩きじゃない」
「んあぁ~……。いい感じぃ~……」
「違うよ」
俺に『違う』と言ったカワイに、今度は両肩を揺さぶられる。これはなかなかいいぞ。いい力加減だ。
だけど決して、カワイは俺を寝かせたいわけではない。さらに言うのであれば、俺だって眠るつもりはないのだ。
「ヒト、起きて。仕事に行かないとダメなんでしょ? ヒト、ヒトー」
あぁでも、こうしてカワイが俺を起こそうと必死なのは嬉しいぞ。カワイが俺のことだけを考えて、俺のために声を掛けてくれて、俺に触れてくれて──。
[──そんなに肩が凝っていらっしゃるのなら、私が電気を流して差し上げましょう。先ずはどちら側の首にいたしますか?]
「──本当にごめんなさい起きますスミマセン」
お義母さんもとい、ゼロ太郎の逆鱗に触れてしまった! 俺はシャキッと目を覚まし、ついでに箸をしっかりと握り直す。
ゼロ太郎の声がいつも以上に低くなっても、カワイは平常運転。「ヒトが起きた。ゼロタローはヤッパリ、すごくすごい」なんて感嘆の声を上げている。くうっ、ピュアだ!
ゼロ太郎に起こされた俺を見て、カワイは安堵している。その証拠にカワイは俺から離れ、自分の椅子に戻ったのだから。カワイの朝食タイムを阻害してしまったのは、ちょっと反省だな。
……それにしても、首、か。俺はサラダをモソモソと食べ進めつつ、そのままポツリと呟いてしまう。
「──カワイにキスマークを付けたい」
[──いい大人がなにを言っているのですか]
無論、ゼロ太郎のツッコミは鋭かった。
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