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俺は即座に、クールドライ系ゼロ太郎に反論をする。
「だってだって、カワイが誰の男なのかを見せつけたいじゃん!」
[いい大人が『だってだって』なんて言わないでください]
「言葉に年齢は関係ないよ!」
[小癪な正論を……]
サラダ、モグモグ。今日も朝食を完食だ。作ってくれた二人に感謝を!
俺とゼロ太郎が仲良く言い争っていると、同じくサラダを食べ進めていたカワイが小首を傾げたではないか。
「ボクが、誰の男か?」
カワイは呟くと、天井を見上げた。つまり、ゼロ太郎を見ているのだ。
「……ゼロタロー。ボクは誰の男?」
[不本意ながら、主様ですね]
「──らしいよ。ヒトは他に、誰に見せつけたいの?」
「──カワイッ!」
なんて嬉しい! カワイ、大好きだよ~っ! ゼロ太郎も若干ほんのり一言多い気がするけど、それでもありがとう!
そうだよね。そもそも、見せつける必要なんてないんだ。俺とカワイはラブラブ。その事実だけで大団円じゃないか。
「素敵なことに気付けた素敵な朝だね。このまま、今日一日を素敵で埋め尽くしたいよ」
「つまり?」
「勿論、言うまでもないよね。今日は有給──」
[──朝食を終えたのでしたら、身支度を始めましょうね、主様]
駄目だった! 流れでいい感じに突き抜けられるかと思ったけど、駄目だったか!
でも、そうだね。おいしいご飯を食べて可愛いカワイを堪能したんだ。俺の元気はフルチャージ、活気という活気に満ち溢れている。これで仕事をしないなんて、むしろ逆にもったいないかもしれない。
……いや、もったいないのか?
[さぁ、主様。浅慮な熟考はおやめになって、出勤のご準備を]
「あーッ! なんかっ、なんか丸め込まれそう! どうして!」
問答の時間すら与えられない! 怪しい! だけど逆らえないのが俺とゼロ太郎の関係性だ!
ということで、俺は出勤準備の開始を。カワイと一緒に食器を運んだ後、俺は洗面所に向かった。
そこでふと、鏡に映る自分の顔を見る。
[いかがいたしましたか、主様]
鏡を見て動きを止めた俺に気付いて、ゼロ太郎がポンと訊ねた。
「いや、なんだろう。今まで自分に無頓着だっただけかもしれないけど、俺ってこんな顔だったんだなぁって」
[えぇ、そうですよ]
ハッ! しまった! 俺はすぐさま気付く。
ゼロ太郎のことだ。どうせいつものように『間抜け面』とか『情けないお顔』と言って俺を詰ってくるに違いな──。
[本当に、カワイ君には感謝をしてもし足りませんね]
「……えっ? カワイ?」
[はい。カワイ君のおかげですよ]
なにが、だろう。俺は鏡から天井に視線を移した。
勿論、ゼロ太郎の顔は見えない。だけどきっと、ゼロ太郎に表情があるのなら。今はこんな顔をしているに、違いない。
[主様の顔色が、良くなりました。とても健康的で、お顔だけではなくお体も健康です。本当に、カワイ君のおかげです]
嬉しそうに瞳を細めて、口元を緩めている。ゼロ太郎の声は、そんな表情を連想させた。
……そ、っか。月君やカワイにも言われたけど、ヤッパリ今の俺は顔色が良いのか。
「いつもありがとう、ゼロ太郎。それと、カワイにもお礼を言わなくちゃね」
[そうですね。カワイ君には特に、大きな感謝を伝えなくてはいけません]
なんだか、ホッコリだ。俺とゼロ太郎は珍しく、お互いそんな気持ちになった。
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