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 二度寝をせずに出勤し、昼休憩。俺はカワイが持たせてくれたお弁当を眺めていた。  お弁当箱の中身は、半分が白いご飯。残りの半分には、オカズ。しかも、お肉とお野菜どっちも入っているなんて……。 「毎日贅沢すぎるね、俺って」 [突然どうしたのですか]  休憩室の隅っこで、俺は独り言ちる。俺の呟きに応じられるのは、ゼロ太郎だけだ。  お弁当を眺めつつ、箸を用意。俺はその間も、ポツポツと独り言のように言葉を漏らした。 「カワイは、体調を崩している。それなのに、いつもと変わらない日常を過ごそうとしてくれているんだ。……カワイがいい子すぎて、胸が詰まるよ」  俺には、無理だ。いつもゼロ太郎に迷惑をかけていたし、前回はゼロ太郎だけじゃなくカワイにも迷惑をかけた。  分かっている。これは杞憂どころか、むしろ失礼な考えなんだって。 [カワイ君は、そのような主様の反応は求めていないと思いますよ] 「……そうだね。俺も、そう思うよ」  ゼロ太郎だって、そう思っているんだ。誰も、俺の自己嫌悪じみた感傷なんて求めていない。なぜなら、俺自身が求めていないのだから。  だけど、考えてしまう。どうしたって、考えてしまうのだ。  カワイは今、苦しんでいないだろうか。嫌な思いをして己の心を摩耗させていないのか、なんて……。考え始めたら、キリがないくらいに。 [主様にとって【不調】がどのようなものか、私は理解しているつもりです。カワイ君もきっと、分かっています。ですが、それをカワイ君に向けるのは違うと思いますよ] 「うん……」 [笑顔でいてあげてください。カワイ君が主様に望むことは、このくらい単純な行いですよ] 「……そう、だよね」  ゼロ太郎の言い分は正しい。『正しい』と、理解している。  折角作ってくれた、今日のお弁当。俺が気難しい顔をしながら平らげる様子なんて、カワイは望んでいないだろう。 「全部分かっているって言うのに、うまく振る舞えない俺の馬鹿野郎~っ」 [拗らせていますね。無理もありませんが]  頭を抱えて唸ること、数秒。こんなことをしていたって俺の中でなにかが好転することはないが、それでも考え込んでしまう。  駄目だ、気を取り直そう。お弁当と向き合って、俺はキリッと凛々しい顔を作った。 「こんな状態でいただいていいものじゃないよね、お弁当って。もっとしっかりしなくちゃ」 [いえ、あの。そのようなお顔でいただくものでもないと思いますよ] 「いただきますっ!」 [聞いちゃいねぇ]  カワイとゼロ太郎の厚意には、誠心誠意応えよう。愚直かもしれないが、俺にできる最良の感謝表示はこれだ。 「あっ、センパイ! 今日もこんな隅っこの方でお昼を──……って、えぇっ? センパイ、なんでそんなマジな顔でお弁当つっついてるんですかっ?」  例えそのせいでゼロ太郎だけではなく、俺を慕ってくれている月君にドン引きされたって。俺にできることはこれだけと言ったら、これだけなのだ。  ……えっ? 『そうはならんやろ』って? なっとるやろがい! 「あのー、もしもし、ゼロ太郎さん? 今日のセンパイ、大丈夫ッスか?」 [こんにちは、竹力様。いつものことなので、どうかいつも通り接してあげてください]

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