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一緒にご飯を食べた後、俺はカワイに提案をした。
「よし! 今日は俺が食器を洗うよ!」
「──ヤダ」
「──たぶんその返し、申し訳なさ所以じゃないよね?」
信用がっ、信用が無さすぎる!
だけど、今日の俺は引かないぞ。どれだけ信用が無く、どれだけ信頼が無いとしても! むしろこれは汚名返上の大チャンスでもあるのだから!
「今日は是が非でも俺が片付けをするよ! だから、カワイは横になっていて!」
「んっ!」
思わずカワイの両肩をガシッと掴むと、どうやらその力が少し強かったらしい。カワイは眉を寄せ、息を呑んだ。
「あっ! ごめんねっ、カワイ? 力、強すぎたかなっ?」
「う、ううん。大丈夫。変な反応して、ごめんなさい」
「いや全然! カワイが謝ることじゃないよ!」
なぜか、ほんのりと気まずい空気になってしまったぞ。どうやらカワイも同じ考えに至ったらしい。珍しく、カワイの方から話題を戻したのだから。
「えっと、話を戻すね。……ボクの体は、寝てどうにかなるものじゃないよ。だから、大丈夫」
「それでも、安静にした方がいいよ。だから、家事は気にしないで横になっていて?」
横になってどうこうなるものじゃない。それは、俺にだって分かる。
だからと言って、普段通りの生活ができるのかと問われれば答えは決まっていた。体調不良なのには変わりないのだから。
すると、カワイは少しナーバス気味だったのかもしれない。
「……ヒトは、ボクに家事をしてもらうの好きじゃない?」
らしくないことを、口にしたのだから。
気持ちは分かるよ。こういう時、思考がマイナスに向かっちゃう気持ちが。
だから俺は、俯いたカワイと目を合わせた。
「──俺は【カワイが好きだから】こうして言っているし、心配もしているんだよ」
「──っ」
自分に価値を見出せなくなる。これは俺だけの特性かと思っていたけど、そんなことはないのだろう。
人間は誰だって、風邪を引くと体だけじゃなく気持ちまで弱る。今のカワイは、それと同じなのだろう。
「だから、そんな意地悪な言い方しないで? カワイにはとにかく、安静にしていてほしいんだ」
「ヒト……」
カワイは優しくて、それでいて利巧な子だ。すぐに俺の言葉を理解して、コクリと頷いてくれた。
「心配かけて、イジワルなこと言って、ごめんなさい。……それと、ありがとう。ボクのこと、好きって言ってくれて」
「お礼を言われるようなことじゃないよ。でも、どういたしまして」
恩返し、とは違う。カワイがしてくれたことを、真似ているだけだ。
それでもカワイが笑ってくれて、心が温かくなってくれたのなら。俺はそれが、くすぐったくなるくらい嬉しい。
「よ~しっ! それじゃあ早速、洗い物を始めようかな!」
「じゃあボクは、ヒトを監視──……間違えた。観察するね」
「えっ? カワイ、今『監視』って──」
「──大好きなヒトをずっと見ていたい。……ダメ?」
「──狡い可愛いよろしいですともぉーッ!」
ゼロ太郎に[茶番ですね]って言われた気がするけど、そんなこと知ったことか! 今日も彼氏が可愛いのだから仕方がない!
……だけど、立たせるのは心配だからね。食卓テーブルの椅子をキッチンに持っていこう。カワイは素直に、俺の行動を認めてくれた。
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