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正直に言おう。『自信もやる気もあった』と。
お粥を作った経験は、隠したところで意味がないのでハッキリ答えよう。『ありません』と。
でも、なんとなく驕りがあった。きっとスープよりは簡単だろうし、そもそも今の俺はなんでもできるって。そう、なぜか思い込んでいたのかもしれない。
……だからまさか、お粥すら満足に作れないなんて。そんな仮定を、欠片も想像していなかったのだ。
「大丈夫だよ、ヒト。前のスープより、食べ物に見えるから」
そう言い、カワイはお粥を食べ始めてくれた。味が濃くて、色味も濃い、どう見繕っても胃に優しくなさそうなお粥を。
調理工程に不備なんて無かったはずだし、ミスもしていないはずだ。それが余計に、俺の心をポキッと折ってしまった。
「不甲斐なくて、ごめん。本当に、ごめんね」
俺が【不調】の時、カワイがしてくれたことに不満なんて無かったのに。カワイは俺を看病してくれて、俺なんかよりもすごくすごく立派に家事をこなしてくれていたのだ。
対する俺は、なにをしている? 家事をすればカワイに心配をかけて、情けなくて、失敗ばかり。『今までしてこなかったから』なんて、言い訳にもならないじゃないか。
「ヒト、落ち込まないで。大丈夫、ちゃんとおいしいよ」
カワイの優しさが、少しだけ苦しい。善意の純度が高ければ高いほど、恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。
どうしてもっと、カワイのように立派な男になろうとしてこなかったのだろう。自己嫌悪は、止めどなくどこまでも進んでいく。
──だから俺は、またしても【悪い癖】を発動してしまったのだ。
「──カワイは、俺に拾われない方が……保護されない方が、良かった?」
不釣り合いだ、と。そう自覚したと同時に、俺はハッとした。今の発言は、あまりにも配慮に欠けていた、と。そう気付いたからだ。
その気付きを肯定するように、部屋がシンと静まり返る。つまりそれは、あのゼロ太郎でさえも言葉が挟めなかったということを意味していた。
早く、撤回しなくちゃ。俺は急いで顔を上げて、カワイを見た。
そこで、俺は──。
「……っ、で」
初めて。
「──なんで、そんなこと言うの?」
初めて、カワイの涙を見た。
「……カワ、イ?」
まさか。まさか、泣かせてしまうなんて。胸の辺りが急に、冷たくなったような感覚がした。
早く、謝らなくちゃ。そう思うのと同じくらい『なんて言えば良いのだろう』と思っている自分もいて……。
「ごめん、なさい。涙、勝手に出てくる……」
対するカワイは、必死に言葉を探してくれていた。そしてカワイは、思い浮かんだ言葉をきちんと俺に伝えてくれたのだ。
カワイの方が苦しくて、大変で、つらい状況なのに。それなのに、カワイは【俺のために】言葉を紡いでくれているのだ。
「ううん。……ううんっ。俺の方こそ、無神経でごめんっ」
分かっていたじゃないか。カワイは体調が優れなくて、つまりそれは心だって弱っているって。だったらそんなの、情緒が不安定になっていてもおかしくないんだ。
それなのに俺は、いつもみたいに自己嫌悪をして。自分に価値を見出せないからって、その価値観をカワイにまで押し付けた。
カワイはいつも、俺を愛してくれているのに。
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