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その日の、夜中。時刻は、日付を跨ぐ直前辺りだろう。ふと俺は、目が覚めてしまった。
そろ、と瞳を動かす。隣には、俺にピッタリとくっつくカワイがいた。静かに呼吸をして、ぐっすり眠っている様子だ。
夕食を作って、食器洗いをして、お風呂掃除をして、その他にも細々とした家事をして……。ヤッパリ、日頃からカワイとゼロ太郎がしてくれていることはすごくすごいことだ。今さらすぎるけど、強く実感した。
思わず俺は、カワイの頬をそっと撫でる。すると、カワイの瞼がピクリと動いてしまった。
「ん……。……ヒ、ト?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「少し。でも平気」
そう答えた後、カワイはすりっと俺の指に顔を寄せる。その姿が、自分でもビックリしちゃうくらい『可愛い』と思えて仕方がない。
だけど今は、いつもみたいにカワイの可愛さを噛みしめている場合ではないだろう。
「日中は、本当にごめんね。俺、無神経で……」
「ううん。ボクこそ、ごめんなさい」
俺の謝罪を受けたカワイは、すぐに言葉を返してくれる。そのまま俺と向き合って、カワイは言葉と同じように悲しそうな顔をした。
「ヒトのこと、ちゃんと分かってるのに。ヒトがあんなことを言ったのは、ボクを傷つけたかったわけじゃないんだって……ちゃんと、分かっていたのに」
泣かせてしまったのは、俺だ。傷付けたのだって、俺。
「価値観って、きっとすぐには変えられない。ヒトが自分にどんな値を付けているかを知っていても、ヒトが【そうせざるを得なかった経緯】を、ボクは等身大で理解できていない。だから、ヒトを責めるつもりはないよ」
それでもヤッパリ、カワイは俺に謝った。必要なんて無いのに、カワイは俺に謝って……俺を、想ってくれている。
カワイの優しさに、いつも俺は甘んじていただろう。恥ずかしいことこの上ないけど、つい数時間前にそれを痛感したばかりだ。
だけど、ただ【甘んじているだけ】では駄目だって。今は心から、そう思える。
「……うん。だからこそ、謝りたい。それと同じように、俺だってカワイの気持ちを否定するような言い方をするべきじゃなかった。あれは完全に、八つ当たりに近かった。……だから、ごめんね」
コクリと、カワイは頷く。そのままカワイは俺の寝間着に指を添えて、すぐに寝間着を掴む指に力を入れた。
……どうしてだろう。なぜだか今のカワイが、俺には【縋っている】ように見えた。
「ヒト、憶えてる? ヒトが死ぬときは、ボクも一緒に死ぬ。二人で心中しようって、ボクが約束したこと」
「……うん。憶えてるよ。ハッキリ、憶えてる」
どうして今、その話を? 俺はきっと、自分の顔に疑問符を貼り付けていただろう。
「ボク、その言葉を撤回しないよ。今もずっと、そう思ってる。だから、教えてほしいことがあるの」
俺が戸惑っているって、カワイは気付いている。なぜならカワイは俺に対して目敏くて、それでいて賢い子だから。
だけどカワイは、あえて俺の疑問をそのままにした。
「──なんとなく、ただ生きているだけ。……それって、楽しいの?」
今のカワイにとっては、自分自身の中にあるこの疑問の方が、俺の疑問よりも強いから。そう、確信しているからだろう。
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