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第7話 アイスティーの罠7

 ほとんど千秋にしがみつくようにしてトイレに入り、便座に座り込む。  千秋の胸を押しやって、外へ出ていかせようとしたが千秋は俺を抱きしめたまま囁いた。 「土野さん、本当にすみません」 「う、……も、い、いから……っ、はやく」  出て行ってくれと言いたかったのだが、千秋はなぜか俺の股間に手を伸ばし、やんわりと握りしめた。 「んぅっ!」  湿った下着で擦るようにされて体がびくんと跳ねた。体から力が抜けて崩れ落ちそうで、無意識に千秋のシャツを握ってしがみついた。  千秋は形をなぞるように指を這わせてくる。じれったい刺激で腰が震えるような快感が湧く。やめさせなければと思うが、体に力が入らない。 「土野さん、俺、ちゃんと責任取るから」  いつになく低い千秋の声に心臓がドクドクと高鳴る。  千秋の指がスラックスのジッパーを下ろし、湿った下着に触れてくる。硬くなったものの裏側を撫で上げられ、脳みそが沸騰するような快感に全身が震えた。 「うっぐ……っ!」  俺は千秋の腕にしがみつき、達していた。 「……え、あれ……? 土野さん、もういった?」  千秋の戸惑ったような声に、快感の余韻が激しい羞恥に塗り替わる。体はまだ熱いが、頭は少し冷めた。 「うるさいっ、出ていけ! もう帰れ!」 「え、でも、まだ」  構わずドアの外へ押し出し、鍵をかけて閉じこもった。ほっと息を吐いた途端、濡れた下着や汗のにおいが気になった。  とりあえず下を脱いで汚れた股間を拭いた。濡れた下着を履きなおす気にはなれず、下着は丸めてスラックスのポケットに押し込んだ。  念入りに手を洗い、ドアの外に耳を澄ませてみたが、人の気配はない。  さすがに気まずくて帰ったんだろうか。  そっとドアを開け、驚いた。  千秋はトイレの前にしゃがみこんでいた。叱られた犬のような顔で立ち上がり、頭を下げた。 「土野さん、ごめんなさい」  この三か月、どんな失敗をしてもこいつは笑って乗り越えていた。愛嬌と要領の良さで楽しそうに人の輪を広げていく姿ばかり見ていた。  なんでもそつなくやるやつだと思っていた。俺とは違う世界を生きているように見えた。それが羨ましくもあり、もどかしくもあった。  そんな千秋が俺なんかのせいでこんな顔をするほどの失敗をしたのかと思うと、なぜか気分がよかった。  つい絆されてもういいと言いたくなるが、ここで甘い顔をすれば調子に乗りそうだ。 「もう帰れと言っただろう」  そっけなく言うと、千秋はうつむいた。ちくりと胸が痛んだ。 「ごめんなさい」  小さくかすれた声で千秋はそう言って、足早に店を出て行った。  言い過ぎただろうか。  一瞬、呼び止めたくなったが、堪えた。  これで千秋が俺と距離を取るなら、それはそれでいい。  まだ熱の残る体には、千秋に触れられた感覚が残っている。それにまったく嫌悪感がない。むしろ、本当はもっと触れて欲しかった。  そう思う自分があまりに情けなく、恥ずかしい。  これで良かったんだ。

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