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第3話 食べたとか食べてないとか食べろとか食べないとか

「りょうーめしー」  キッチンからのあおさんの声掛けに、読んでいた雑誌を見開きのままソファに置いて「今行く」と返事をする。  キッチンと一体型のダイニング、古材で作られたテーブルの上には美味そうな料理が並ぶ。 「今日生姜焼きにした」  ふふ、美味いよ。にっこり笑うあおさんに「ありがとう」を伝えて食器棚からグラスを2つ取り出してミネラルウォーターを注ぐ。先に席についたあおさんの前にそれを置いて、自分も席につく。  あおさんが「ありがとう」を言ってからパンと手を合わせた。 「いただきます」  言ったあおさんが肉を頬張る。  うまっ!流石俺!言いながら食べ進めるあおさんをじっと見つめる。それに気がついたあおさんがジトリこちらを見た。 「なんだよ、早く食べろよ」  冷めるぞ。なんて言うあおさんの皿を指さして「あおさん」名前を呼ぶ。 「……なに」 「野菜は」 「そこにあるだろ」  あおさんが俺の皿を指した。  確かに。  確かに俺の皿にはキャベツの千切りと焼き色のついた赤ピーマン、黄色い人参のスティックが肉の付け合せについていた。それだけじゃない。あおさんがいつだか買ってきたランチョンマットにもなるトレーの上の小鉢にはレンコンとおかかの和え物とワカメと玉ねぎの味噌汁。  確かに、野菜はある。  俺のスペースには。  問題はあおさんの皿上だ。 「肉しかのってないじゃん」  色とりどりの俺のトレーとは打って変わってあおさんのそこは茶色だ。  大皿に乗った肉とどんぶりの白米、のみ。 「……俺味見したし」  だからいいんだよ、そっぽを向いてむしゃむしゃと食べ進めるあおさんの皿にピーマンとレンコンを乗せる。 「野菜、食べたほうがいいよ」  俺が乗せたそれらをあおさんが俺の皿に戻す。 「だから味見したからいいの!」 「絶対してない」 「した!味見しないでお前に出すわけ無いだろ!」 「あんた食べたのおかかだけだろ」 「だってレンコン嫌いなんだよ!」 「じゃぁキャベツ食えよ」 「キャベツなんてもっと食えるかよ!」  お前は俺のかーちゃんかよ! フンッ! 大げさに鼻を鳴らしあおさんが体ごと横を向いた。丼を片手にそのままの体制で食べ進めるあおさんに「明日は俺が作るよ」と言えばガバリと勢いをつけてこちらを見た。顎に米粒がついている。それに手を伸ばし取って、自分の口に入れる。 「お前がつくるのなんかビタビタの野菜だろ!絶対やだ!」 「ダメ、絶対食えよビタビタの野菜」 「っ!!」  いいよ! わかったよ! キャベツ食べればいいんだろ!  叫んだあおさんに対してニッコリと口角を上げる。肉だけの皿にキャベツを半分。嫌そうに眉間に皺を寄せたあおさんに向かい「いただきます」と手を合わせる。 「野菜なんか食わなくても死なない」  ブスッとあおさんが吐き捨てた。  キャベツをもしゃもしゃ口に入れて涙目で飲み込んで「お前なんかキャベツだ」と悪態をつく。  それがかわいくて、けれど笑顔はこらえる。 「ちゃんと食えよ」 「食べてる」 「あおさん」 「なんだよ」 「俺はあんたが好きだよ」  ふん、知ってるし、唇を尖らせたあおさんがキャベツを噛みながら言った「俺も好き」に今度は笑顔にならざるを得なかった。

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