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第3話
愛玩動物とその主人が特別な縁で結ばれると愛玩動物は転変する。ヒトになってからの関係はそれぞれだが親子か恋人となる場合が多いと言われている。それも人間同士とは違い生涯に渡る絆とされており本能的に強く惹かれ合うものらしい。
これまではおとぎ話や都市伝説のように思っていたのだが、どうやらそうでないことを俺は身を持って知ることになった。
風呂から上がった後はげっそりする俺とは対照的に小春はよりふんわりと、そして良い匂いになってご機嫌だ。そんな小春に麦茶を飲ませてからベッドに入ると当然のように良い匂いの身体を密着させてくる。小春は覚えたての言葉で眠気の限界までお喋りをする。それが可愛くてふたりで汗ばむのも無視してむにゃむにゃしていく心地よい声に相槌を打った。やがてお喋りが止み、小春の安らかな寝顔を見て今日も幸せに過ぎたことを噛み締める。
「おやすみ小春、大好きだよ」
小春を起こさないようそっとふわふわの耳を撫でる。
「んぁ……」
すると愛らしい唇の隙間から浴室に響き渡ったあの声が漏れた。
ああ、いけない。身体が急速に熱を怯えていく。胸がぎゅーっと痛み、ドクンドクンと激しく飛び跳ねる。
思えば小春が転変してからというもの、毎日が忙しくて自身を慰めることをしていなかった。浴室で欲情してしまうのはもしかするとそのせいかもしれない。そのせいで小春がやけに艶めかしく感じてしまうのだ。思い違いのまま小春に触れるようなことがあってはいけない。もしも俺たちの縁が恋人として結ばれていないならそれは大変なことだ。
俺はもはや爆発寸前のそれを抱えてそっとベッドから抜け出した。なんでもいい、どんな理由でもこじ付けてとにかく溜まった物を解放したかった。
物音を立てないようトイレに移動してイヤホンを装着した上でスマホの動画を再生した。画面の中で乱れる女性を見て必死に勃起を扱く。しかし決定的な快感が得られない。あれほど興奮していたのだからそう時間はかからないはずだった。それなのに違和感ばかりが強く自慰に集中できない。一度動画を閉じホーム画面に戻ると愛しいサバ白の写真が表示された。その瞬間に浴室での小春の姿と素肌に受け止めた感覚が蘇り一気に陰茎の感度が高まるのを感じた。
「ひより? ひよりぃ」
それと同時に扉の向こうから小春が俺を呼ぶ声が聞こえた。きっと俺がいなくて目が覚めたのだ。ひとりになってしまって必死に俺を探しているのだろう。
そう気付いた時にはもう遅かった。
「何してるの……?」
寂しさに耐えかねた小春がトイレの扉を開けて固まった。恐らく俺が何をしているかその意味は分からないはずなのに明らかに異変を感じ取っている。
「あれ? あれ……?」
小春がそわそわと落ち着かない様子を見せた。無知ながらに見てはいけない物を理解しているのかもしれない。俺は急いで下半身をしまい小春をベッドへ連れて行った。
「起こしてごめんね。もう寝ような? おやすみ小春」
「日和、小春おかしい、おかしいよ」
剥き出しになったシーツへ誘導するが小春は一向に動かない。不安げに「おかしい」と訴えて震えながら俺にしがみついた。
「おかしい? どこがおかしい? 痛い? 熱い?」
突然の訴えに小春の身体をあちこち触るが熱を出しているわけでもどこかが痛いわけでもなさそうだ。だが小春の身体を確かめながらほとんど俺はわかっていた。
「変だよ、小春おかしい、トントンして、トントンしてぇ」
切羽詰まった様子で小春は俺の膝に乗り上げた。不安のあまりぴったりとくっついた薄い胸からはどくどくと心臓が暴れているのを感じる。はあはあと熱い息を吐き出す唇は艶やかに火照っている。
「……小春はもう猫じゃないからトントンしても仕方ないよ」
「? 病気? 小春病気なの?」
猫の頃、小春は腰のあたりをトントンと叩かれるのが好きだった。理由は明確になっていないが、猫にとってそれが気持ちいいのだそうだ。
つまり、俺が思う通りの変化が起きている。
「病気じゃないよ。小春は病気じゃないから大丈夫」
お互いに持て余した熱を抱えながらその身体を抱き合った。熱の正体がわからない小春は湧き上がる疼きに戸惑うばかりで不憫に思える。
「日和これ何? やだよ、やだあ」
「小春、今日はちょっとだけ大人になろっか」
「大人……?」
きつく抱きついた小春の腕をそっと解き柔らかなパジャマのボタンを外した。胸がはだけると真っ白な素肌からふわりと湿った熱気が放たれるのを感じた。
「今から夜のお散歩だ!」
「おおおお?!」
それから小春にはしっかりと暖かな服とアウターを着せて冬の気配すら感じる秋の夜道を散歩した。公園で走り回る小春は楽しそうで、夜空に輝く星よりも眩しく輝いていた。
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