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第3話

「ねぇ、そんなに面白い?」  隆也はつまんなさそうに言った。 「ごめん、ごめん。こんなに笑ったのは久し振りだよ。ところで君はスーツとか専門にしてるの?」 「隆也でいいよ、君じゃなくてさ…これは、詳しくは言えないけど、クライアントに提案するためのデザイン」 「じゃあ、隆也君が」 「だから、隆也でいいよ。隆也君なんて気持ち悪い」 「じゃあ、隆也がベルクージャの看板背負ってるわけだ」 「まぁ、そんなとこか…な。他にもデザイナーは数人いるけど、今回は俺のデザインを提案してもらいたいんだよね。まぁ決めるのは是澤先生だけどね」  隆也は鞄からタブレットを出して、デザイン画を真嗣に見せた。 「俺の作品はこんな感じ…クロッキーのスーツはクライアントのため」  真嗣はタブレット画面をスワイプして、数々のデザイン画を見た。いづれも優しくて、柔らかい、クロッキー帳にあった優美な線描がしっかりとしたデザインになったものだった。真嗣は特に三つ目に見たエアリー感たっぷりのドレスに目がいった。  自分ならこのドレスの優雅さを損なわずにパターンがひけるだろうかと考え始めた。 「なぁ。パターンのこと考えてるだろ」 「えっ…まぁ」 「うちのやつらにも、こんなの引けるかって、言われてさぁ」  隆也のデザインは着るというより、纏っているといった方が適しているものばかりだった。 「俺はさ、布とか皮革とかじゃなくて、自然の光とか雨とか空気とかそんなのを纏っているって感じられる服を作りたいんだ」 「あぁ…わかる。特にこれは、風を纏ってるね」  隆也は真嗣と会ってから、初めて笑顔になった。 「真嗣…お前すごいな。わかってんじゃん」  隆也は文字通り目をキラキラさせて真嗣を見た。茶色の癖毛と色白の肌、くっきりとした二重の目、その顔は、真嗣にビスクドールを思わせた。 「あぁ、そろそろ行かないと」  隆也はスマホ画面の時刻を見た。 「なぁ、真嗣。今度飲みにいかない?」 「俺も今そう思ってた。じゃあ隆也の時間のある時にでも」  それを聞いて隆也は真嗣を睨んだ。 「俺、社交辞令は嫌いだから。本当に俺と飲みに行く気ある?」    真嗣は一瞬怯んだが、ちょっとムッとして 「隆也が忙しいかなと思って、気を遣って言ったんだよ」 「時間は自分で作るんだよ。真嗣と飲みに行くんだったら、それくらいどうとでもなる」 「なんか、かっこいいこと言うよな」 「じゃ、今決めよう。場所は真嗣に任せた…あぁ、できたら和食の居酒屋で」 「はいよ。じゃあ決めたら場所の地図送るわ」  二人はそれぞれ会計を済ませて、店を出た。 「じゃあ、俺こっちだから。あっ…これサンキューな」  隆也は人差し指の絆創膏を真嗣に見せて言った。 「おう。じゃあ週末にな」  真嗣は、かなりすごくてちょっと面白いヤツと知り合いになれたことを喜んだ。そして週末が楽しみになった。

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