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第6話

 週明け。隆也から出された試験問題、あのエアリー感を表現するにはどの素材がいいか、昼休みにヒントを求めて古巣の婦人服のフロアーへ出向いた。フロアー奥の棚にある生地のサンプル帳を手に取ると後ろから声をかけられた。同期の河嶋だった。 「おお、高倉、久しぶり。元気か?」 「あぁ、久しぶり。ちょっと生地を探しててな…」 「子供服のエースが、今度は何をするんだ?」  河嶋が冷かした。 「ちょっとな…」 『さくら』の販売商品は子供服が7割だった。子供服に転属になったのはいわば昇進みたいなものだった。真嗣は婦人服のままがよかったが、サラリーマンである以上は逆らえなかった。 「なぁ。お前、先週の金曜日さ、駅前のビルの居酒屋にいただろ」 「あぁ、いた、いた。お前もいたの?」  河嶋は、少し含みのある顔で聞いてきた。 「おまえ、マッシーと友達なの?」 「…マッシー?」 「真下隆也だよ」 「あぁ、最近知り合いになった」 「俺、あいつと同じ学校でさ」  隆也が専門学校に通っていたと聞いたような気がする。同期の河嶋と隆也が同学年だとすれば、隆也と真嗣はほぼ同じ年齢だ。初めて隆也を見た時はだいぶ年下と思っていた。あのくっきり二重の大きな眼が実年齢よりも若く見せているのだろう。  真下だから、マッシーか。真嗣は隆也がそう呼ばれていることを聞いて、今度そう呼んでみようと思った。 「あいつさ、ちょっと日本人離れして男のわりに綺麗な顔つきでさ、でなんかクールな感じでちょっととっつきにくい雰囲気でさ。でも、この間見た時はお前としゃべりまくるわゲラゲラ笑うわ、なんか俺が知ってるマッシーとぜんぜん違ってて驚いてさ、声かけそびれた。あいつ、あんな顔で笑うんだな」  真嗣は嬉しかった。隆也は自分には素で接してくれているのだと思った。やっぱり、マッシーと呼ぶのはやめようと思った。隆也は自分といる時はマッシーではなく隆也なのだから。 「あいつのデザインってさ、なんてのかな優美っていうのかな…すごい優しくて柔らかいんだよね。学内のコンペでも何度も表彰されてたし。で学校の理事してた是澤先生に引き抜かれて、今はベルクージャにいるって聞いたけど」 「あぁ、今もそこにいてるよ」 「で、これはあくまでも噂なんだけどね」  河嶋は声をひそめた。 「是澤先生ってバイでさ、気に入った奴がいたら、自分のオフィスに連れ込むって聞いたことがあって。まぁ、マッシーはそんなことは絶対にないと思うんだけどね」  どこの業界でも、似たような話しはよくあるものだと真嗣は思った。ただ、隆也の場合、見た目でそういった噂が流れているのだとしたら、全くもって気の毒な話しだと隆也に同情した。  隆也からの就職試験問題は、まだ本人を納得させる糸口すら見えなかった。預かっている鍵も返せていない。真嗣は夜にでも連絡をしてみようと思った。

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