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第7話

 真嗣は隆也に鍵のことで連絡をした。隆也から、ほとんど使ってないから真嗣が持っておいて、と軽く言われた。隆也らしい返答だと思ったが、そう言うわけにもいかず、新物のホタルイカで隆也を誘い出した。今週末もあのイカ料理が美味い店『松峰』で飲むことになった。  週末の金曜日、今回は真嗣の方が先に店に着いていた。まず、生中を注文しようと思っていたら、隆也もやって来た。 「お前なぁ、イカをぶら下げたら俺が絶対くると思ってんだろ」  いきなりの愚痴に真嗣は苦笑しながら 「だから、その通りだろ」  隆也はうっせえと言いながらも、嬉しそうだった。 カウンターの大将も隆也を覚えていてくれた様子で、包丁を持ったままの手をあげて、威勢よくいらっしゃいと言った。  キンキンに冷えたビールで乾杯をして、大将おすすめのホタルイカを醤油で漬けた沖漬けを食べた。 「あぁ、俺はこのために仕事してんだなぁ」  隆也はしみじみを言った。 「昭和のサラリーマンかよ」  真嗣は笑いながら、鞄から隆也の家の鍵を出した。その鍵には白のフェルトで作られた小さなイカのマスコットがボールチェーンで付いていた。 「はいこれ。冷蔵庫で冷やしとけよ」 「うわぁ、何これ…めっちゃ可愛いじゃん。お前が作ったの?真嗣って、イカのパターンも引けるんだ」  隆也はイカのマスコットが大層気に入った様子だった。真嗣はマスコットではしゃぐ隆也を見て、作って良かったと思った。内心はバカにされるかと心配していたのだ。  すると、隆也は鍵からボールチェーンごとマスコットを外し、鞄からキーケースを出して、マスコットを取り付けた。そして、キーケースに付けられたイカのマスコットを見せながら、何もなくなった鍵を真嗣に戻した。 「コイツがさ、淋しいって言ってるから、その鍵にコイツの友達付けてやって」    結局、イカのマスコットを渡すだけになってしまい、鍵は真嗣が預かることになりそうだった。  数品のイカ料理を堪能した頃、真嗣は聞いた。 「この間のスーツのデザイン決まった?」 「まぁね。最終の審査対象には残ってる。最近先生が他のオフィスから引き抜いてきた奴のデザインと…たぶんどっちかになるかな」 「そうか…後は先生次第ってことか」  真嗣は河嶋が言った言葉を思い出した。 『是澤先生はバイだから、気に入った奴を連れ込む』  隆也が話した最近引き抜かれた奴とデザインを競っているのだとしたら…結果に下心が加味されるようなことが無ければいいのに、と真嗣は思った。判断基準がどうであろうと是澤が絶対なのではあるが。 「まぁ、チーフデザイナーとか古参のパタンナーとかが、俺のを推してくれているんだけどね。今回は絶対勝ちたいんだよ」  今回のクライアントは国内屈指の老舗ホテルだった。インバウンドを見込んで今までと違う業態のホテルの開業で、和を感じられる制服のデザインを依頼された。テレビでも話題になっていた。隆也はベルクージャのデザイナーとして、自分のデザインを提案して欲しかった。  デザインを提案する期日はもう間も無くだった。

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