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第8話

「兄やん、わかってるって。俺も何となく聞いてるから」  隆也はベルクージャ古参のパタンナーの進藤と話していた。 「お前も、ガキじゃねえんだから。この世界、すぐに生き馬の目ん玉抜かれんだぞ。最近弓原の野郎が先生としょっちゅう話てんぞ」   一週間ほど前、是澤からデザインの最終段階の詰めをしようと、是澤が普段から利用しているホテルに来るよう指示があった。オフィスでできる話しなのにと隆也は嫌な気がした。まさかとは思うが、噂はあった。結果の見返りとして、一晩のアバンチュール。仮にもしそうだとして、その求めに応じたことで自分のデザインが採用されたとしたら、真嗣に胸を張って結果を伝えることができるだろうか。  ホテルへ来るように指示をされた翌日に隆也は是澤に、パタンナーにも同席してほしいからオフィスでお願いしますと言った。それからは最終の詰めの話しなどはなかったような扱いだった。  その後は進藤が言うように、ライバルである弓原は打ち合わせと称して是澤の部屋に入ることが多くなった。噂レベルではあるが、是澤が使っているホテルで二人がチェックインしている姿を見たという話しも出ている。  弓原の見かけは隆也と違っていた。背が高くそしてモデルばりに細い。短い金髪に片耳だけのピアス。要は性欲を満たされれば誰でもいいのか、隆也は是澤の節操のなさにうんざりした。  弓原に決まるな、と隆也は思った。身体くらいで決まるのなら自分のデザインはたいしたものではなかったのだ。ベルクージャを背負うなら、弓原が脱いで迫ろうが足元にも及ばないくらい圧倒したデザインでなくてはならない。  弓原のデザインも是澤に加筆修正される。頻繁に話しているのは今それが行われているのだろう。弓原の色が全くなくなったデザインを提案されて、それでも自分のデザインと言われることに、弓原はどう思うのだろう。進藤が言う、ガキじゃねぇんだからの言葉が頭をよぎる。  隆也は真嗣に会いたくなった。 『松峰』で待っているから、とSNSでメッセージを送った。

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