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第10話
昼休み後、チーフデザイナーの麻子が今回のコンペの関係者を集めた。結果を伝えるためだ。が、そこには弓原の姿はなかった。是澤ではなく麻子が伝えるようだが、伝えなくても是澤と弓原がここにいないことが結果と同じ意味をなしていた。二人はクライアントである老舗ホテルへベルクージャとしての制服のデザイン画を見せに朝から出掛けている。
「今回は弓原のデザインに決まりました。先生は両者、甲乙つけ難いいい作品だったと言われています。ただ今回は…」
麻子は言葉を探しているようだった。
「今回は、ベルクージャとして提案するデザインは弓原の方が適していたそうです」
隆也は表情を変えることなく聞いていた。
「適していたねぇ…マッシーも、もう少し上手くやれなかったのかねぇ…ったくよう」
後の方でざわついた。古参のパタンナーの進藤が毒づいた。
「ちょっと、進藤さん」
「あぁ?…みんなもマッシーに決まると思ってたんだろ?結局、色目使った方が、適しているんだとよ」
麻子の顔がみるみる険しくなった。
「進藤。あんた、自分が何言ってるのかわかってるの。あんたくらいのレベルのパタンナーはいくらでも代わりはいるんだからね」
「麻子さん、それ、今のご時世じゃ、アウトですよ」
進藤は飄々として、その場を離れていった。それにつられて他の集められた者たちも自然と解散していった。
「マッシー…」
麻子が隆也に声をかけてきた。隆也は少し面倒臭そうな表情で麻子を見た。
「ごめん…私も勝手なことを言って期待させてしまった。進藤の言うことは気にしないでね。腐らないでまた」
隆也は麻子が言うのを遮った。
「麻子さん。別に俺何とも思ってないですよ。ここでは先生が絶対だし。俺、今日はもう帰っていいですか?進藤兄やんのせいでなんか変な雰囲気になってるし…弓原のフォローちゃんとしてやってくださいね」
麻子はすまなそうな顔で頷くと、お疲れ様と一言だけ言った。
隆也は帰りがけ、真嗣にSNSでコンペの結果を伝えた。
『コンペだめだった』
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