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第20話

 当初今年は暖冬だと言われていたが、雪が降る日が続いた。    真嗣は水着の生産行程の最終チェックに余念がなかったが、ちょっとしたことで、この作業もこれが最後なんだと思うことが増えてきた。  この間、了解をとった隆也との旅行先は既に決めていた。隆也はしきりにどこに行くのか聞いてくるが、真嗣は当日まで内緒と言い続けていた。  真嗣は旅行の日の天気と隆也の体調が悪くなりませんようにと、この先自分の五十年間の運をかけて毎日、何かに祈っていた。  梅の花の満開がテレビで映されるようになった頃、真嗣は隆也を誘って、買い物に出かけた。春用のスニーカーが欲しかった。ある程度の目星はつけていたが、実際に履いてみたかった。 「これ、ネットで見ててさ、欲しかったんだよね」  真嗣が見ていたのは、アッパーからソールまで全て白一色の物だった。 「お前、そういうのが好きだったんだ。春らしくていいんじゃないの?」  隆也は大して興味も無さそうに言った。 「なぁ、お前もさ、これにしない?」  真嗣は隆也の顔をチラッと見て言った。 「えぇ?…俺は白はあんまりっていうか、履いたことないし、いいよ」  隆也はいつも黒かグレーのスニーカーだった。 「だったら、一回履いてみろよ。お前だったら似合うって」 「なんだよ、えらく積極的だな」 「ほら、サイズもありそうだし。あのさ、旅行に履いて行こうよ」 「お揃いでか?ちょっとお前どうしたんだよ」 「だから、最後のお願い」 「あのな、最近お前さ、最後って言葉使い過ぎなんだよ」 「だって、そうだろ?なぁ、最後だから、俺にプレゼントさせてくれよ」 「…ったく。わかったわかった。自分で買うよ。お前な、最後っていうワイルドカードはあと二枚だからな」 「えぇ?たったの二枚?…じゃあ最後だから五枚にして」 「うるせぇよ」  真嗣は隆也とお揃いのスニーカーを購入できたことを、隆也にはバレないようにガッツポーズをして喜んだ。 「あのさ、旅行までに履き慣らしといてね」  隆也は、はいはい、と言いながらもまんざらではないような顔をした。  真嗣が自分の人生の半分を賭けて祈った天気と隆也の体調は、めでたく万全だった。真嗣は自分の車で隆也のマンションまで迎えに行った。 「おはよう。いい天気になったな」  真嗣は上機嫌であったが、隆也はいつもより早い時間の出発に眠そうな顔で挨拶代わりに手を上げた。車に乗り込むと隆也は早速聞いてきた。 「で、どこ行くんだ?」 「まだ、内緒。ミステリーツアーみたいでさ、なんか面白くない?」 「ミステリーなのは俺だけだ。教えてくれないんなら俺は寝るぞ」  隆也はそう言ってシートを少し倒した。 「着いたら、起こしてやるよ。おやすみ」  真嗣は全てが楽しそうだった。

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