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第21話

 春休み期間であったが、平日だったせいでスムーズに走ることができた。途中で何度か休憩をしながら、まず到着したのは、漁港だった。昼前ということもあり、魚市場は競の後の片付けも終わり、閑散としていた。 「…お前な、ここに俺を連れてきた理由は何となくわかる。が、俺にイカを食わせとけば黙って言うことを聞くって思ってんだろ」 「当たり。勘がいいね」 「わかるに決まってんだろ…お前の考えてることくらい」  愚痴をこぼしつつも、隆也は辺りをキョロキョロしながら、それらしい店を探していた。駐車場から数分歩いていくと、見過ごしてしまいそうなくらい狭い間口で、年季の入った暖簾が掛かっている店があった。 「着いたよ、ここ。隆也、好きだと思うよ」  その日に水揚げされた魚を、主人がその日の気分で料理する、地元では知られた店だった。 「うわぁ、なんかめっちゃいいじゃん」  予想通りの隆也の反応に真嗣も満足顔だった。  料理は大将にお任せでと注文した。すると隆也が 「大将、俺イカが大好きなんだ。イカの何か頼むね」 「あいよ。確かコウイカが上がってたな」  人の良さそうな大将は嬉しそうな隆也の顔を見て目を細めた。  出された料理すべて予想を遥かに超えた美味さで、二人は大満足だった。 「お前ってさぁ…『松峰』といい、この店といい、ほんと押さえてくるよね」 「お前の胃袋くらい、簡単に掴めるよ」 「はぁっ?…言ってくれるね。でもまぁ、事実か」   車に戻ると、隆也は運転を代わろうかと言ったが、真嗣は今からなんだよ、と意味ありげにニヤッとすると運転席に乗り込んだ。  海岸沿いの道から、今度は一転して車窓は山あいの風景になっていった。そして山間部を抜けると小さな町があった。 「なぁ…そろそろ教えろよ。どこ行くんだ?」 「もうすぐだよ」  真嗣はそう言うと、その町の外れにある木立の中に建っている、白い建物の前で車を停めた。 「着いたよ」 「ここどこ?」  隆也が聞いているのをよそに、真嗣はハッチバックを開けてスーツケースを出した。  その白い建物の屋根は三角で、その上に十字架が掲げられていた。それは小さな教会だった。

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