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第22話
「えっ?ここ教会?…お前クリスチャンだったの?」
「うぅん…クリスチャンではないけど、今日だけはちょっとね」
その教会は、日中であれば誰もが自由に祈りを捧げることができた。が、今は周りには誰一人いなかった。真嗣はスーツケースを引っ張って、その教会の扉を開けて中に入った。隆也も仕方なく後をついて行った。礼拝堂にも誰もおらず、真嗣は教会の前室でスーツケースを開けると、白い布の塊を出した。
「隆也。突然でごめん。これ着てくれないかな」
その白い布を広げるとドレスだった。
隆也はそのドレスのフォルムに見覚えがあった。
「これ…ひょっとして」
「そう。ずっと前に風を纏ったみたいって言った隆也のデザインのドレスだよ…と言っても俺の今の腕ではトレーンは別々にしかできなかったけどな」
隆也はあまりの突然のことで、ドレスと真嗣の顔を交互に見るだけだった。
「お前がデザインしたドレスだから、お前に着てほしいんだよ…それで…結婚式を挙げたい…ここで」
「ちょっ…ちょっと待てよ。ちゃんと説明しろ。いきなり結婚式って」
「お前に着てもらうと思って作ったらさ、着ているとこ写真撮りたいだろ?じゃあどこで写真撮ろうかなと考えたら、ウェディングドレスだし、やっぱり教会がいいと思って、それだったら、俺も一緒にって思うと結婚式がいいと…単純な三段論法だよ」
「お前な、何小難しいこと言って誤魔化してんだよ」
「なぁ、隆也。俺はワイルドカード持ってんだよ」
真嗣はいつになく強気だった。隆也は真嗣の真剣な顔を見ると圧倒された。自分も気に入ってたあのデザインのドレスが、実際にどう出来上がったのかを見てみたい気持ちも正直あった。隆也は腹を括った。
「じゃあ、ここで、着替えるのか?」
「そう。お祈りをするわけじゃないから、前室だけ入らせてもらって、外で写真を撮ってもいい許可はもらっているよ」
隆也は後を向いて着替え始めた。
そのドレスは光沢のある生地で作られ、胸元から膝下にかけてタイトなシルエットで、裾に広がりのある美しいマーメイドラインドレスだった。
隆也は着替えで足元を見た時、真嗣が白のスニーカーをお揃いにしようと言った理由がわかった。隆也はやられた、と思い本当に観念した。隆也は背中のファスナーを上げてもらおうと後ろを振り向くと 真嗣は白のパンツを穿いて白のウィングカラーのシャツに生成りの蝶ネクタイを締めて同色のカマーバンドをしていた。
「お前…」
「似合うだろ?」
「いいから、ファスナー上げて」
真嗣がファスナーを上げると、隆也はピッタリだ、と驚いた。
「当たり前だ。お前に合うように作ったんだから。それでその上からこれに手を通して」
真嗣は、透け感のある柔らかい生地で作られたヘアサロンで着用するクロスに近い形の羽織り物を、隆也の前で広げた。スタンドカラーの下に入れたギャザーがゆるやかなドレープを作り、更にドルマンスリーブも軽やかに風になびくようなデザインだった。隆也が腕を通すと、真嗣は背中の真ん中あたりで大きめのリボン結びをした。後ろの左右重なった裾はドレスのトレーンの様になった。
「お前…考えたな。こんな着方をするなんて」
真嗣は、まぁね、と肩をすくめると、スーツケースから更に取り出して、隆也に向けてそれも広げた。
ベールだった。
「ベールまで付けんのか?俺…」
「完璧にしたいんだよ…今日、いや今だけは俺の花嫁になってくれよ」
「そんなストレートに言うなよ…俺のズボンのポケットにヘアゴムがあるから、出して」
隆也は伏し目がちに言うと、ヘアゴムを受け取り髪を後ろでまとめた。そして真嗣の前で少し屈んだ。真嗣は隆也の頭にベールを付けると、顔の前に下ろした。
「隆也…綺麗だよ」
「わかってるって。俺がデザインしたドレスなんだから」
「いや…そういう意味じゃなくて」
「もう…お前の顔見たらわかるよ。だから…恥ずかしいから…それ以上言うな」
真嗣も白いタキシードを着ると、隆也の手を取って扉を開けて外に出た。
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