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第25話

 撮影は佳境に入っていき、美香は特に隆也の視線の方向や指先の位置まで、細やかに指示を出した。 「なぁ、俺、モデルの気持ちがわかったわ…あいつらホントすごいな」 「この目の前のカメラマンも凄すぎだ。この子本当に女子高生か?」  二人の感心をよそに、美香の目は活き活きとし、自分の美の世界に没入しているようだった。 「最後にお姫様抱っこしましょうか」  美香は嬉しそうに指示をした。 「えっ?」  二人は呆気に取られたが、美香のその姿を早くカメラに収めたいという気迫に負けて、それに従った。  真嗣は隆也の背中と膝裏に手を回すと、いくぞと声をかけた。難なくお姫様抱っこができた。抱き上げられた隆也は照れ顔だった。写真を撮っていいと言ったのは自分なのだが、まさかお姫様抱っこまでさせられるとは、相手が真嗣であるのが余計に恥ずかしかった。 「新婦さんは新郎さんの首に手を回してください」  照れ顔の隆也に追い討ちの指示だった。じっとしている隆也に真嗣は 「ほら、お前のことだって」 「あっ…あぁ」  隆也は真嗣の首に手を回した。 「すごい、お綺麗ですよ。幸せオーラに包まれていますよ」  絶妙なタイミングで声かけをする美香は既に一端のプロカメラマンのようだった。 「見つめ合って、そこからキスをください。あぁ、できたらタコチューが可愛いかな」  戸惑っている隆也に真嗣は 「なぁ、そろそろ腕に限界がきそうだ。ほら、口をとがらせてするキスだよ」 「わかってるよ…あぁ、もう、せーのでいくぞ」  隆也の『せーの』の声かけで二人の唇の先が合わさった。 「もう、最高です。むちゃくちゃ素敵です」  ようやく撮影は終了した。  撮影が終わっても美香には高揚感が残っているようだった。カメラの液晶モニターを見ながら二人に近づいてきた。 「お疲れ様でした。どうぞ、見てください」  と言って二人が見やすいようにカメラを向けた。そこには、思いもよらなかった映像が映っていた。 「えっ…?こんなとこから撮ってたの?」  教会の中でドレスに着替えたばかりの隆也が真嗣の手に引かれて出てくる映像があった。 「すいません。そこからずっと撮ってました」  美香は女子高生らしい表情でペロッと舌を出した。 「誰もいないと思った教会の中から真っ白のドレス姿の…最初、妖精が出て来たと思いましたよ。で人間の男の人と妖精の結婚式だって思って、もう、ファンタジーの世界ですよ。ほんと、美しくて、無我夢中で撮ってました。こんな感覚で撮影したのは初めてです」  すると美香は急に二人に向かってきちんと足を揃えて立った。 「すいません、遅れました。ご結婚おめでとうございます」  そう言って美香は恭しくお辞儀をした。 「…あぁ、待って待って、違うんだよ」  真嗣は苦笑しながら訂正した。美香はニヤニヤしながら 「いいじゃないですか。今どき同性婚は珍しいわけじゃなし…お似合いですよお二人」 「いや、本当に違うんだよ」 「俺はデザイナーでこのドレスをデザインして、こいつはパタンナーでこれを作ったの」  美香はそのことが結婚を否定する理由だとは思えない様子だった。きょとんとしている美香に二人で変わるがわる結婚式までの経緯を簡単に説明した。 「そうだったんですか。でもお二人はお互い信頼し合って、大切な人なんでしょう?ファインダーを通して見るとね、よくわかるんですよ」  いくら、本当の結婚式ではないと言っても、指輪の交換やキスまでしていたのだから、美香にそのように見えたのは、ある意味当たっていた。  真嗣は核心を突かれてドギマギした。それが隆也にバレないようにできる限り平静を装って言った。 「君…竜泉寺さんは本当に女子高生?さっきの撮影の時もそう思ったけど」 「カメラを構えると人格が変わるって、よく言われます」  そう言って美香はケラケラ笑った。

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