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第26話

 隆也は優に二百は超える映像を真剣な顔で次々と見ていた。 「すごいね、君。撮ってもらってよかったわ」  美香は嬉しそうだった。 「あの、さっきのお話し聞いて思ったんですけど、ドレスのエアリー感をもっと出せる場所があるんですけど…」  美香は上目遣いで遠慮がちに言ったが、その目から絶対に撮りたいという訴えがひしひしと伝わった。 「いいじゃん。行こうぜ、真嗣」  隆也は美香の中にプロ魂を見たようだった。とことん付き合ってやろうと、ニヤッとした顔を真嗣に向けた。この出会いも神様の采配なんだろうと、真嗣も笑顔で頷いた。 「あの車、お兄さん達のですよね。その場所に歩いても行けるんですけど、できたら車の方がいいかも」 「いいよ。じゃあ車で移動しよう」  美香は隆也の後ろに回って、ドレスのトレーンが地面を引き摺らないように持ち上げた。 「あぁ、ほんとうに綺麗…私もいつかこんなドレスを着られる日がきたらいいのになぁ」  美香は今は夢見る女子高生だった。  隆也は後部座席に乗って、ナビをするため美香は助手席に乗った。その場所は木立の中のまぁまぁ急な坂を上がりきった高台のような所だった。バレーボールコートくらいの広さがあり、砂利で整地されていた。何の目的の場所かわからないらしいが、その奥の一画だけ木々がないため見晴らしがよく、さっきまでいた教会が見えた。心地よい風が吹き上がっていた。 「どうですか?いい所でしょう?向こうの山に陽が落ちるから、部員とたまに夕陽の撮影をしに来るんです」 「地元の人しかわからないな、ここは」 「じゃあ、花嫁さんはこちらに立ってください」  美香は待ちきれない様子で、早速指示を出した。隆也を風下に立たせ、ドレスのトレーンが風になびくように配置した。真嗣を隆也と向かい合わせにして、二人で手を取るように伝えると、ベールがふわっと風で浮き上がった。 「あぁ、ステキ。でも、もう少し強い風が吹かないかな」  風待ちであっても、美香は二人の周りをあちこち移動して、シャッターを押し続けた。すると、サワサワと葉っぱの揺れる音が聞こえたかと思うと、隆也のドレスのトレーンとベールが風を受けて、舞い上がった。 「きたーっ!この風最高」  美香は撮り続けた。 「真嗣。さっきのタコチューするぞ」  隆也は美香の懸命さにほだされたのか、サービスショットをプレゼントした。お姫様抱っこでのタコチューよりも、自然な笑顔で真嗣と唇を合わせた。 「ああーっ!もう最高。ありがとうございます」  美香は深々と二人にお辞儀をした。それを見た隆也と真嗣は、大笑いした。

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