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第28話
「まさかさ、お祝いだって、蒲鉾もらえるなんて思ってもみなかったよな…着替え終わった後の俺を見た時のお母さんの顔ったら、なかったもんな。うちの娘は何を連れ帰ったんだって、ちょっと気分を悪くしてるって思ったんだけど、二人のお祝いにって…世の中優しい人が、結構いるんだな」
隆也は、しみじみと言った。
「なんか黙ったままだな…美香ちゃんと俺が仲良く喋ってたから、やきもち焼いてんのか、お前」
真嗣をからかった。
「違うって。隆也がさ、なんかお兄ちゃんの顔してたから、色々思い出してさ」
真嗣は言ったとたん、しまったと思った。吉嗣のことはせめてこの旅行の間だけは言わないでおこうと決めていたのに。すると隆也は意外な言葉を口にした。
「俺さ、妹がいたんだよね…って言うか、今もいてるんだけど」
初めて聞いた話しだった。
「俺が小学五年くらいだったかな、親が離婚して。俺は親父のほうに、妹はまだ幼くてさ母親についていって、それで離れ離れだ。母親はすぐに再婚して、子供ができたらしい。もう、妹の記憶のなかには、俺の記憶どころか、兄ちゃんがいたことすらないんだと思う。いっつも兄ちゃん兄ちゃんって後追っかけてきてさ、絵を描いてくれってせがんでさ…可愛かったな…なんかさ、歳はぜんぜん違うんだけど、美香ちゃんとちょっとかぶったんだよね」
「そうか…可愛いよな、下って」
「あぁ、なんかしんみりした。そうだ、今日は結婚式付き合ってやったんだからな、今晩は美味いもの食わせろよ」
「そうそう、お前さ、美香ちゃん家で、おっさんのコスプレって言っただろ…あれ、結構、傷ついたぞ…俺」
「あぁ、それであの時、しょんぼりしてたのか。マジにとるなよ。急にコンテストに出すなんていうからさ。それも『自然』がテーマだぞ?もう…悪かったよ、そんな顔すんなって。俺も結構、感動してたんだからさ…俺達の結婚式」
真嗣は『俺達の結婚式』と言ってくれた隆也の気持ちが嬉しかった。
「隆也って、たまにそういうこと言うんだよなぁ」
「なんだよ、そういうことって」
「なんでもないよ…今晩の旅館だけどさ、写真に生け簀が映っててさ、イカ泳いでなかったかな」
「えっ⁈マジかよ。泳いでなかったら承知しねぇぞ」
陽が落ちかけている県道を旅館へと車を急がせた。
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