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第5話 さらけ出して、君となら(3)

「謝らなくていい、サブドロップに陥ったのは俺の落ち度だ」 「でも、俺は自分のことしか考えてませんでした。アフターケアも忘れて、勝手にプレイを中断してっ」 「好ましい行為でなければ、Domにだってプレイを中断する権利くらいある。何をそんなに気に病んでいるんだ?」 「っ、だって俺……自分の中にあんな欲求があるだなんて、知らなくて」  羽柴は声を詰まらせ、目を伏せる。  それでもなお言い募ろうとしたが、犬飼が制するように手をかざした。 「おおかた、俺のSub性に当てられたんだろう。煽った自覚がないわけではないし――こちらの都合に付き合わせて悪かったな、羽柴」  近づいた二人の距離が、ここにきて遠く離れてしまったかのようだった。一人で勝手に完結しようとする犬飼に、羽柴は愕然としてしまう。 「なんで……どこまでお人好しなんだよ、あんた」  思わず、絞り出すような低い声が出た。  静かに詰め寄れば、反射的に犬飼がたじろぐ。しかし、羽柴は逃がさないとばかりに腕を掴んで、噛みつくように声を荒らげたのだった。 「あんたはもっと、俺を責めてもいいはずだろ!? どうして、いつもそうやって一人で解決しようとすんだよっ! 人には『仕事を抱え込むな』だの、さんざん注意しといて──どうして自分から一人になろうとするんだ!」  この期に及んでもなお、犬飼はストイックで、上司として羽柴のことを案じてくれている。そのどこまでも孤高な姿勢が寂しくもあり、己の未熟さを突きつけられるようで悔しくもあった。  矢継ぎ早にまくし立てる勢いに圧倒されたのか、犬飼は目を見開いて固まっている。しかし、すぐに我に返ると、こちらの手をやんわりと引き剥がしてきた。 「逆ギレとは、まったく困ったガキだな」  呆れたように言いながらも、その声色には慈しむような響きがあり、羽柴はドキリとした。ついカッとなってしまったが、これでは本当に自分が子供みたいで、ますます居たたまれなくなる。 「す、すびばぜん……」 「謝るな。謝罪なんてもう聞き飽きた」  犬飼は笑い混じりに返すと、羽柴の頭をくしゃくしゃと撫でまわしてきた。  かと思えば、自然な動作で胸元へと寄り添ってくるものだから、羽柴は情けなくもあたふたとしてしまう。 「え、っと。犬飼さん?」 「本当は、君に拒絶された気がして怖かった」  胸元に顔を埋めたまま、犬飼がぽつりと呟く。それはようやく聞けた本音だった。 「ちがっ、拒絶なんてするわけがない! 俺は……大切な人に酷いことして、どうしようもなく興奮している自分が、何よりも許せなかったんですっ」 「だから、プレイを中断したと?」  犬飼は顔を上げ、こちらをじっと見つめてきた。  羽柴がおずおずと頷けば、切れ長の瞳が訝しげに細められる。 「羽柴は――好ましい相手と、セックスしたいとは思わないのか?」 「セッ!?」 「まさか、このガタイで不能とは言わないだろうな」  犬飼はこちらの下腹部に手を伸ばしてきて、無遠慮に触れてくる。そのあまりにもストレートな言動に、羽柴は顔を真っ赤に染めた。  が、ここで答えなければ男が廃るというものだろう。どぎまぎとしながらも、小さく口を開く。 「し、シたいとは思いますけど……フツーに」 「だったら、それとどこが違うんだ? ダイナミクスにしたって同じ性欲だ。ときに不純な思いを抱くことも、当然あるだろう」 「でもなんだか。まるで、性に振り回されてるみたいじゃないですか」 「……ダイナミクスは、これから一生付き合っていくものだ。自分を構成する一部だと受け入れるしかない」  こともなげに言ってのける犬飼に、羽柴は何も返せなかった。

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