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小ネタ ちょこっとだけオフィスラブ♡

「あの、犬飼主任」  給湯室から出てきた羽柴は、偶然にも通りがかった犬飼のことを呼び止めた。  周囲をきょろきょろと見まわしたあと、手にしていたファイルで隠すように一瞬だけキスをする。犬飼は少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの仏頂面に戻ってしまった。 「公私混同は避けろ、と言ったはずだが」 「すみません。口元のほくろ見たら、つい」 「……どういう理屈だ」 「そ、それに、こうして同じオフィスで働けるのもそう長くはないですし」  慌てて弁解するようになってしまったが、どちらにしたって本心だ。  犬飼のベトナム駐在が決まってからというもの、互いに忙しい日々が続いている。同じ空間で働けるのもあと少しだと考えると、どうにも寂しく、つい欲が出てしまった。  犬飼はこちらの言葉を聞くなり、黙り込んでしまう。  その顔色をソワソワとうかがっていた羽柴だったが、次の瞬間には力強く腕を掴まれていた。 「えっ、主任!?」  何事かと思えば、ずるずると給湯室まで連れていかれる。  続けざまに、犬飼は羽柴のネクタイを思い切り掴んできた。グイっと引き寄せられて、互いの鼻が触れ合ったのも束の間――瞬く間に、唇が重ねられる。 「っ!」  それは深く貪るようなもので、羽柴は大いに驚かされることになった。  時間にしたら、ほんのわずかな出来事だったかもしれない。けれども、ようやく解放されたときには息が上がっていて、腰のあたりがずくりと疼くのを感じた。 「公私混同は避けろ」と言ったのは、いったいどこの誰だったのか。こちらを見上げる犬飼の眼差しには、隠しきれない情欲が宿っている。 「……蓮也さんのエッチ。こんなことされたら、収まりつかなくなるんすけど」 「そうか、頑張れ」  思わぬことに、あっけなく身を離されてしまった。  羽柴は「ええっ!?」と声を上げたが、犬飼は素知らぬ顔で給湯室から出ていこうとする。かと思えば――、 「今夜、部屋で待っている。ちゃんと切り上げて来いよ」  去り際にそんな言葉を残していくものだから、まんまとしてやられた。羽柴は背筋を正して、元気いっぱいに返事をする。 「はいっ、最善を尽くします!!」  そうしてオフィスに戻ると、意気込んで外回り営業に向かったのだった。

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