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アルトリコーダー

「俺の人生に、アルトリコーダーは、必要ないと思うんだ」 音楽室への移動中、甲斐が、そう言った 「多くの人は、そうだろうね?」 「だったらさ、興味ある人とか、必要な人とかで、よくない?」 「そうかも…」 「だろ?!」 相当苦手なのかな… アルトリコーダーかぁ… 「でも、俺は楽しいかな…」 「穂積、音楽に興味とかあるのか?」 「そういう訳じゃないけど…高校入ったら、音楽自体が選択教科になったりするみたいだから…」 大和も、朔兄も言ってた 「ぜってぇ選ばない!」 「俺も…選ぶとしたら、音楽以外かな…って思う」 「なのに、アルトリコーダー吹くのが、嬉しいのか?」 「だって…今、授業で吹かなかったら、それこそ人生で吹く事なんてないだろ?アルトリコーダーの組み立て方も、どんな風に穴を塞いで、どれ位の息で、どんな音がするのか、知らないで人生終わるんだ」 蓮は、組み立てる事しか出来なかったんだ 中学の音楽の授業自体…出た事あったのかな… 中学の制服も、ジャージも、教科書も、アルトリコーダーも… 家では、何度も何度も見た けれど… アルトリコーダーを吹く事は…1度もなかった どこを押さえたら、何の音が出るのか 知ったところで、吹ける訳でもなく ただ… 小学校のソプラノリコーダーより大きなアルトリコーダーが、なんか嬉しかったのは、覚えてる 「穂積って、人と違った考え方するよなぁ…」 「俺、変わってるから。これは、俺の考え。甲斐が、同じく思う必要はないよ?」 「でもまあ…穂積が言う事も一理ある。確かに、今年と来年で、こいつと一生サヨナラかと思うと、ちょっとは可愛い奴に見えてくる」 「ふっ…そっか。じゃあ、来年まで頑張ろ?」 「おお!」 その日の昼休み 「穂積~」 「鍵谷、なんで泣きそうなんだ?」 「一生のお願いだ!俺にアルトリコーダーを貸してくれ!」 「ふっ…そんなの一生のお願いにすんなよ。ちょっと待ってて」 アルトリコーダーを持って来て渡す 「はい」 「ありがと~~」 「鍵谷、持って帰って練習とかしてんの?」 「いや…小学生の弟がさ、見たい、吹いてみたいって煩くて、この前持って帰って…忘れた…すまん」 「ああ…俺も妹居るから、すっごく分かる」 「ちゃんとティッシュで吹いて返すから~~!」 鍵谷、弟居たんだな どこも下の子って同じなんだ 一応俺も、大和の弟なんだけど 大抵の事は、四葉の勢いに負けて… いや… 大和が、小学校入学の時 何度もランドセル背負わせてもらったっけ… 大和の机でも、よく遊んだ 自分が兄ちゃんになって分かった 四葉の事は大切で 喜んでるの見ると嬉しい だから、やめろ、触るななんて思わない だけど、どこかで…ほんの少し思ってる 俺のなのに… まだ新しいのに… 大和も、そんな気持ちで 俺が喜んでんの見てたんだろなぁ 分かったからって、何って事もないけど 兄ちゃんになんなかったら、気付かなかった事 四葉が居てくれて、良かった そう言えば、蓮の時もそうだったかな 葵も2個下だったから… 「ほ~~づ~~み~~」 「わっ!…甲斐?びっくりした~」 めちゃくちゃテンション低い! 「鍵谷とは…アルトリコーダー貸し借りする仲なんだ…」 「え?それ、どんな仲?」 そんな仲、聞いた事ないけど? 「それはズバリ…間接キッスの仲だな」 「渋谷…違うな。友達が困ってたら、渋谷だって貸すだろ?」 「普通はそうだが、お前らには前科があるからな」 「橋本…前科って?」 「人目を忍んで密会し、熱く抱擁してただろ。見かけによらず大胆だな?穂積…」 「赤川…事実を曲解するな」 ってか… 鍵谷にアルトリコーダー貸すとこ、皆見てたの? そんな、おかしい事か? 「穂積…俺が忘れても、貸してくれる?」 「鍵谷…残念ながら、同じクラスの奴に貸したら、俺が忘れた事になるよ」 「お~…甲斐の申し出は断ったぞ。やっぱ鍵谷は特別な存在なんだな。じゃ、俺は?」 「あのなぁ…今の話聞いて…」 「穂積君、私は?私…」 「……え?」 突然近くに座ってる女子が混ざってきた ずっと聞いてたの?! 「いや…だからね?同じクラスだと…」 「じゃ、来年隣のクラスになって、忘れたら貸してくれる?」 「いいけど…女子は女子の方がいいんじゃない?」 「やんわり断られた~」 「お~…女子ですら断ったのに…すげぇな鍵谷…」 「いや、女子だから断ったんだよ」 何なん? この空気… 「ちょっと…トイレ行って来る」 「お…穂積被告、この空気に堪えられず逃亡」 ちょっと黙ってくれ、赤川… ほんとの事だけど 一応ほんとにトイレに行って、今教室戻るのは危険なので、シュウの教室を覗いてみる シュウ居るかなぁ 「東雲探してんの?」 「宮川…久しぶり。シュウどっか行った?」 「さあ?すぐ戻んじゃね?」 「そっか…」 「急ぎの用事?」 「別に用事はない。ただ、今教室に戻りたくないだけ」 「そっか。穂積苛められてんだな?ヨシヨシ…ここに居ろ」 宮川が、抱き寄せて頭撫でてきた 苛められてねぇし! 多分… 「やめろ。俺は別に苛められてない!多分…」 「ヨシヨシ…認めたくねぇんだな?分かるぞ?」 「お~?宮川、彼氏できたんか~?ワッショイ」 「おお、可愛い彼氏だろ?」 「彼氏じゃねぇし!は・な・せ!」 「ユウ!何してんの?!」 「シュウ!遅ぇよ!早く助けろ!」 ようやくシュウ登場 「宮川…何してんだ?」 「東雲が居ないって、寂しがってたからさ。遊んでやってた」 そう言って、ようやく解放してくれた 「シュウ~~!」 「ユウ…何か用事だったの?」 シュウの後ろに、しがみ付くと 「なんか、クラスの奴らに苛められて、逃げてきたらしいぞ?」 「だから、苛められてないってば!」 「はいはい。本物の彼氏に慰めてもらえ」 「彼氏じゃねぇし!」 宮川は、小学校ん時、俺とシュウと同じクラスになった事があるから、俺達の事、結構知ってる そして…ああやって、からかってくる 「ユウ…クラスで何かあったのか?」 「何かあったって程の事じゃないけど…今、ちょっと戻りたくない」 「どっか行く?体育館でもいいし…」 「音楽室以外なら、何処でもいい」 結局、体育館のギャラリーに上り なんとなく、体育館を見下ろす 「ユウ…どうした?」 「友達が、アルトリコーダー忘れたって言うから…貸したら、なんか皆に色々言われた」 「リコーダー…貸したの?」 「だってさ、友達が忘れて困ってんだぞ?貸すだろ」 「……そうだね」 「だろ?なのに、皆して色々言いやがって!なんか…俺達の友情を侮辱された気分だ」 優しい鍵谷… 間接キッスなんて言われて… 忘れて来た理由だって、弟の為なんだぞ? それをさ… そりゃ…皆だって、からかってんだろうけど 本気じゃないって、分かってるけど 「俺も……いい気はしない…」 「…え?」 「って、言ったら…ユウは困るんだろな」 「シュウ……」 「そろそろ戻ろ?」 「うん……」 いい気はしない… つまり…嫌なんだ 間接キッスが? 俺の事、好きだから? 「シュウ…」 「ん?」 「………ごめん…何でもない」 何か言おうと思ったけど 何を言えばいいのか、分からない 「ユウ…何かあったら、いつでも呼んで」 「ほんとに、苛められてる訳じゃないって」 「ん…」 ごめんって言うのも…変だよな? もう貸さないってのも…どうかと思う けど… やだな…じゃなくて いい気はしない… 困るんだろな… っていう…シュウの気持ちが… 応えられないのに、俺を想ってくれて 応えられない俺を気遣う、シュウの気持ちに… 何か言わなきゃって…思った 家に帰り、四葉とぎゅ~して、ちゅっとしてもらって、着替えたら、ご飯支度 シュウも手伝いに来てくれて… 別に…普通だよな? 四葉の撮影会が終わり、大和のご飯の準備して、父さんと母さんが帰って来て シュウと、俺の部屋に入る やっぱ…なんか分かんないけど とりあえず、謝っとこ 隣に座ってるシュウの方を向いて 「シュウ…ごめん!」 「え?…何が?」 「いや…何がって言われると、難しいんだけど…シュウに嫌な思いさせたから…と、思って…」 「……別に…俺が勝手に好きなだけだから、ユウが謝る必要はない」 「そうなんだろうけど…でも、やっぱ…なんか謝っときたくて…」 そんなんで謝られても困るんだろうけど… 「……じゃあ…俺とキス…してくれる?」 「…え?」 泣きそうな顔…… 驚いて見てると 「嘘…ごめん……今日はもう帰る」 ふいっ…と、目を逸らして 立ち上がろうとするシュウの手を、思わず引いてた 「?…ユウ?」 「……あ、ごめん」 パッと手を離す 「帰って…いい?」 「………あ...いいんだけど…」 「だけど?」 「シュウ…俺がリコーダー貸したから?だから…キスしたくなったの?」 「……ユウは、考えなくていいよ。変な事言ってごめん」 「違う!そうじゃなくて……その…シュウなら…シュウが嫌じゃないなら…別に…してもいいけど…」 「……え?」 だって… もう1回してるし… シュウだし… 逆にシュウがされて、困る事になるなら、そりゃしないけど… シュウがしたくて…したら、ちょっとはシュウが喜ぶなら… 「ユウは…そういうのしたくないだろ?」 「そうだけど…別に、嫌な訳じゃないし…して、シュウが困るならしないけど…シュウがしたいなら…いいけど?」 「………したい……ユウと…キス…したい」 「いいよ…シュウなら…いいよ」 「~~っ…ユウっ…」 そういう意味で人を好きになるって…泣きたくなるのかな… そう思う位… シュウの気持ち聞いてから、こんな顔で、俺の名前を呼ぶシュウを何度も見る どんな気持ちなんだろ… こんなキス…したくなる気持ちって… どんななんだろ… やっぱり、息は上手く出来なくて 苦しくて なんか…堪えられないけど… 1度口を離したシュウを見たら やっぱり、泣きそうな顔してて 「ユウ……」 って呼ぶから すっげぇ、優しく頬っぺた撫でてくるから もうちょっと位、堪えられるよ そう思って、目を閉じる なんで、こうなっちゃったんだろう だって、シュウ…辛そう シュウが好きになるなら 俺も好きにしてくれれば良かったのに シュウが泣くのはやだ シュウが泣くくらいなら キスくらい…いつだってしてやる だって…シュウだもん 「……ユウ…大丈夫?」 「……うん…これ…慣れたら、こんな風にならないもの?」 「こんな風って?」 「なんか…堪えられない感じと…頭ぼ~~っとしちゃうの…」 「それは……個人差があるから」 「…っかぁ……じゃあ俺は、あんまり慣れなそうだな…大抵のものに対して弱いからな」 俺がそう言うと シュウが抱き絞めてきた 「シュウ?」 「ユウは…弱いものが多いからこそ…凄いと思う」 「凄いって?人に迷惑かける事、多いよ?」 「ユウを見てると、元気になれる…頑張ろうって思える…」 「シュウの方が元気なのに?」 「元気なくせに…弱いから……ユウから、いっぱい…勇気とか…やる気とか…もらってる」 「シュウ…」 鍵谷が言ってくれたのと、似てんのかな 「シュウって…凄く優しく触ったり、抱き締めたりするんだな?」 「……大切だから」 「大切?」 「ユウが…大切で……俺、ユウよりデカイし…壊れてしまわない様に…」 「壊れるって…さすがに、シュウに触られたり、抱き締められた位じゃ、どうにもなんないだろ」 そう言うと… ぎゅ~っと抱き締めてくる 「ユウを見ると…想いが…大きくなって……こんな風に…強く抱き締めたり…もっと……そうしたら、ユウ…痛かったり…苦しかったりするから」 「シュウ……俺の事好きになって、なんか辛そうにしか見えないんだけど…誰か他に好きな人できるといいな?」 「………そうだな…そしたら…こんな風にユウに迷惑かけない」 「別に迷惑だなんて思わないけどさ…なんか…よく泣きそうな顔してるから…」 昔はもっと 何も考えずに、お互い一緒に居るだけで楽しかったはず 俺は今もそうだけど… シュウは、一緒に居るだけじゃ辛いんだ 「じゃあ…迷惑じゃないなら…ユウを好きでいさせて欲しい…こういうの嫌なら嫌でいい。ただ…ユウを好きなだけでいいんだ」 「俺はいいんだけど…シュウが傍に居てくれんなら、何でもいいんだけど…」 「良かった…ありがとう」 いいのかな… 良かった、ありがとうも… なんだか泣きそうな笑顔 「シュウ…ちょっとだけ横になる?」 「うん…」 「ほら、手…繋ご?」 「ユウ…」 俺は、こんな時 なんて言ってあげればいいのか、分からない こんな時…どうしてあげたらいいのか、分からない でもこれは 俺にしか出来ない、絶対にシュウが安心する方法だから 「シュウが離れるのも、シュウが辛いのもやだ。他は…何でもシュウの好きにしてよ」 「ユウ…ユウが好きだ」 「ん…知ってる」 「ユウが…好き…」 「分かってる…分かってるよ…」 恋愛についてなんて、まるで知らなくて 恋愛してる人の気持ちも、知るはずなくて 学校で… 衝撃的な会話を耳にして 俺は…驚いた それは、昼休みの事だった 女子達がしていた恋バナ 聞こうとした訳じゃなく 勝手に耳に入ってきた 「…でね?小学校から、ずっと片想いだし、勇気を出して告白したんだって」 「え~!すご~い!」 「そしたらね?ありがとうって、凄く優しい笑顔で言ってくれたんだって」 「良かったね~!両想い!」 「それがね…そうじゃないのよ」 「え?」 「何?どういう事?」 「今の流れは、確実に両想いだよね?」 そうなの? そう…か… 優しい笑顔で、ありがとうなら 両想いか 「最高の友達に、そんな風に言ってもらえるのは、凄く嬉しい。けど…恋愛対象としては見れない。ごめんって言われたんだって」 「は…は~~あ?」 「何それ?!」 「じゃあ、笑ってお礼言うな!」 怖っ… なんか、皆凄く怒ってる 好きではないけど、凄く嬉しいは、ダメなの? 「付き合う気ないなら、期待持たせた事言うな!」 「何いい人ぶってんの?」 「でしょ?!そう思うでしょ?!」 「思う!まず、ごめんから言え!」 「自分大好きちゃんか!何、格好つけてんの?!」 「そんな大切な友達振る様な、冷たい男に思われたくないだけでしょ?結局、友達1人が傷ついて…もう、可哀想で…」 …………え それは…可哀想なの? 「なんか、女子怖ぇな?」 「結局、男が何しようが、悪者にされんだよ」 「そうそう。こっぴどく振ったら振ったで、文句言うくせに」 「は?!何?!男子共!」 「ゲッ…聞こえてた」 「いい?!万が一にも、あんたらが告白される様な奇跡が起こって、万が一にも振るなんて事をしようとするなら、絶対!絶対!絶対!ちゃんと、ごめんから言いなさいよ?!分かった?!」 女子の1人が、立ち上がり、腰に手を当て、ビシッとこちらに指を差した ごめんから…言ってない そんな優しい笑顔じゃなかったけど ありがとう…言っちゃった 「……ごめんなさい」 ついつい、心の中の声が漏れると 「おい!穂積が怯えて、反射的に謝ってんじゃねぇか!」 「あっ…穂積君はいいのよ?ごめんね?穂積君以外のすぐ調子に乗る馬鹿共に言ったの。穂積君は、謝らなくていいのよ?」 謝らなきゃなんないのは…誰より俺だよ 「その…ごめんを言った後は?」 「え?」 「ごめんを言った後は、どうすればいいの?」 「そうね…その2人の関係性にもよるけど、今回の場合なら…振られた方は、いくらどう誤魔化そうとしたって、ショックで今まで通りなんて無理でしょ?それを承知で告白したんだから、振った方も、今まで通りに接しようなんて思わない事!それが、告白してきた者への精一杯の誠実な態度よ!」 ショックで… 今まで通りなんて無理… 今まで通りに接しようなんて思わない事… 告白してきた者への精一杯の… どうしよう… 俺…全部… 悪い事ばっかしてる! 「穂積、お前はまだ、そんな事気にしなくていいんだぞ?固まっちゃって…可哀想に…」 「なんだか分からないが、女子の迫力に圧倒されたんだろ?大丈夫だぞ?こっち来い」 「ちょっと!何よ?!私は、聞かれた事答えただけじゃない?!」 「言い方…圧がすげぇんだって」 「穂積は、そんなん慣れてねぇんだから」 「うっ……穂積く~ん?ごめんね~?穂積君の事じゃないからね?穂積君の事、怒ったんじゃないからね~?」 いや… 怒っていいよ 俺…怒られていいよ シュウに謝らなきゃ 俺が、傍に居て欲しいって言ったから… だから、シュウ…泣きそうな顔するの?

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