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海斗兄ちゃん
ケホッ…ケホケホッ…
ん…
喉…ヤバッ…
すぐに薬飲んだのに、悪化してる
電気を点けて、起き上がる
ケホッ…ケホゲホッ…ゲホゲホッ…
う~~…
咳すると…痛い…
とりあえず、何か飲もうと立ち上がると
コンコン
「ユウ…入るよ?」
「ん…」
大和が、入って来た
「大和…起こし…ケホッゲホッ…」
「ユウ、何かしようと思ったのか?かなり喉辛そうだな…」
「水…」
「分かった。持って来てやるから、座って」
「大丈夫…大和…寝てて…」
今、何時?
大和、起きてたの?
俺の咳で、起こしちゃった?
「ユウ、トイレは?」
首を振ると
「じゃ、座ろ?母さんにも、知らせて来るから、はい…布団にくるまってて…ちょっと待ってて?」
俺を座らせて、布団で巻くと
大和は、さっさと階段を下りてった
何回…こんな大和を見てきたかな…
大和が…まだずっと…
小さかった頃からだ
四葉より、ずっと手のかかる弟が居るせいで
大和は、普通のお兄ちゃんより
ずっと、ずっと…
お兄ちゃんにならなきゃなんなかったのかもしれない
「ユウ、喉痛い?」
「ん…いつもの感じ」
「そう…すぐに風邪薬飲んでくれたのね?」
「ん…」
「明日は、学校休んで、病院かな」
「……ん…俺、1人で行ける」
「ユウ…そんな寂しい事言わないで?」
だって…
また俺の為に仕事休んで、お世話しなきゃならない
小さい頃みたいに、重症じゃない
1人で大丈夫だ
「ユウ、熱も計ってみよ?」
大和が、体温計を差し出す
脇に挟めて、母さんに言う
「母さん…俺、小さい頃みた…ゲホゲホッ……酷くならない…ゲホゲホッ……1人で居れる」
「ユウ…お母さんは、お母さんだから義務でやってるんじゃないの。ユウの傍で、ユウの為に何かしたいって思うのよ?」
分かってる
嫌々やってるなんて思わない
でも…
「俺だけ…やっ…ゲホゲホッ…やってもらい過ぎ…大和と、四葉の分も…全部俺が…」
ピピッ
37.8℃
「37.8℃かぁ…夕食の時飲んでるし、ちょっとまだ薬早いわね~」
「今…何時?」
「11:00。ユウ、寒いとか、暑いとかある?」
「少し…寒い」
「じゃあ、これからまだ上がるわね…上がり切る頃には解熱剤飲めるし、もう少し寝ましょ?」
「薬…置いといて…自分で飲む」
「ユウ…」
皆…寝てて
だって、どうせまた何日か迷惑かけるから
今日はまだ大丈夫だから
寝てて欲しい
「なんだか2、3歳頃のユウに戻ったみたいね?」
「えっ?!ゲホッ…ゲホゲホッ…」
「何でも、1人で出来るもん!って可愛いかったのよ~?熱のせいで、そうなってるのかしら?」
「ちっ…違っ…ゲホゲホッ…」
「さ、1人で寝れていい子ね~?さぁ…寝ましょうね~?」
母さんに、体を倒される
何でこんな事に…
けれども、それ以上抵抗する気力も体力もなくて
俺は、布団にくるまって眠る事にした
「いちについて~…よ~い…どん!…で走るんだよ~?」
「は~い!」
皆、楽しそう
1列に並んで、一緒に走って
砂埃の中笑ってる
「次は、借り物競争の練習~!ぐるっと回って来て、ここで紙を選んで、この紙に書いてる絵と同じ物を借りてゴールしま~す!」
「は~い!」
どんな物借りるんだろ
何が書いてるのかな
「次は、玉入れの練習~!赤と白に別れて、あの中に向かって、出来るだけ多くの玉を入れま~す!」
「は~い!」
あ…あれ…
簡単そう
玉取って、投げるだけ
「僕も出来ると思う」
「蓮…そうよね?何かしたいものね?」
「うん!玉入れだけ、やっていい?」
「…じゃあ、ちょうどあさって健診だから、ゆっくりなら参加していいか、聞いてみよっか?」
「うん!」
1つだけでもいい
皆と同じ様にじゃなくてもいい
ほんの端っこで、真似事でいいから
「……ごめんな…蓮君…運動会は無理なんだ」
「………なんで?ゆっくりだよ?」
「蓮…」
先生が、いいよって言わないと…
「簡単そうに見えるけど、しゃがんで、立ち上がって、投げるって動きは、結構体に負担がかかるんだ」
「……1回だけ…1個だけ…」
「うん…蓮君はね?ちゃんと気を付けられると思う。けど、周りの子達は必死だから、蓮君にぶつかってきたりするかもしれない。そして何より…砂埃が問題なんだ。出来る事なら、見学するのも、砂埃が届かない位、離れた場所で見てもらいたいくらいなんだ」
先生は…
いいよじゃなくて
もっとダメって言ってきた
「ごめんな?蓮君もやりたいよな?」
「……僕…出来るよ…」
「うん。蓮君も、ほんとは出来るの、先生知ってる」
「~っ…僕だって…出来るもんっ…」
「そうだな?出来るとこ、皆に見てもらいたいよな?」
「蓮っ…」
ほんとは、分かってる
先生だって、いいよって言いたい
でも、僕の為にダメって言ってるんだ
母さんも…きっと…
ダメなの知ってて、それでも聞いてくれたんだ
だって…
僕だけじゃなくて、2人共泣きそうだもん
「~っ…ごめんなさいっ…」
「蓮君が謝る事は、何もないよ?いいよって言ってあげられなくて、ごめんね?」
「蓮…ごめんね?蓮…」
「っ…ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…」
「大丈夫…大丈夫だよ...ユウ…」
?
ユウ?
「泣かないで…お兄ちゃん居るよ?大丈夫だよ」
お兄ちゃんなんて、居ないよ?
「凄く熱くなってる。熱計ろうな?」
優しい声…
先生じゃないし、お父さんでもない
この人なら…
いいって言ってくれないかな…
「玉入れ…していい?」
「玉入れ?ふっ…玉入れしたいの?」
「うんっ…1回でっ…いいから…1個だけっ…」
「何個でもいいよ。好きなだけ玉入れしな?」
好きなだけ…
何個でも…
凄い…
そんな事言ってくれるなんて
「お母さん!いいって!」
「良かったわね~?蓮が玉入れしてるとこ、お父さんと見てるからね?」
「うん!いっぱい頑張る!」
凄い凄い
しゃがんで…拾って…投げて…
全然苦しくなんない
皆と同じとこで
皆と同じ様に出来てる!
見て!
僕も出来る!
「……見て」
夜中に気になって、ユウの様子を見に来ると
しくしく静かに泣いてた
大丈夫だよって、声を掛けて、熱を計ったら
ピピッ
39.0℃
めちゃくちゃ熱が上がってた
下に水を取りに行くと、母さんも起きて来て
ユウの熱を伝えると、解熱剤を出してくれた
「大和、明日学校だから寝てて?」
「いいよ。これくらい平気」
「そう?後は、様子見に行くから、寝なさいね?」
「分かった」
水と解熱剤を持って戻る
「ユウ…解熱剤飲めるかな?」
声を掛けると
「玉入れ…していい?」
「玉入れ?ふっ…玉入れしたいの?」
どんな夢、見てんのかな
「うんっ…1回でっ…いいから…1個だけっ…」
ユウは…
基本的に欲という物が少ない
「何個でもいいよ。好きなだけ玉入れしな?」
あれがいい
これが欲しい
そっちにしたい
誰だって思うし、それが誰かと同じになってしまう事もある
俺は、家族の前でなければ、そこまで我慢はしない
もちろん、みっともなく欲しい欲しい等とは言わない
人を上手くコントロールして、手に入れる
けど、結叶は…
そこまで強く何かを欲してるのを、見た事がない
強いて言えば、家族と東雲家に対しては、やっぱり他とは、かなり違うなと思うけど
まるで生まれた時から悟りでも開いてるかの様に
根本的な欲が少ない
1回でいいから…1個だけ…
夢の中でまで、ユウの欲求は謙虚過ぎる
玉入れなんて、幼稚園の頃からやってきたろうに…
「ユウ、少し起きれる?」
「……見て」
「ん?何見て欲しいんだ?」
「玉入れ…僕も…出来てる」
まだ…玉入れしてた
「そんなに玉入れしたかった?」
「うん…僕でも…出来るよ…」
僕でも…
結叶は、人より劣ってるって思ってる
たまたま体弱いから
そうなっちゃっただけなのに
「凄いな?沢山入れれて…」
そう言って頭を撫でると
にこ~~っと微笑んだ
天使の微笑みだ
「これは…起きれないかな…」
解熱剤と水を口に含んで、ユウにキスをする
「んっ?…ん、ん~~っ…んっ…」
ごっくん
「ちゃんと飲み込めたかな…一応、もう少し水飲んどこ」
2、3回水を含んでキスして
ユウの喉に流してやる
「ん……やま…と…?」
「ん…解熱剤飲んだから、楽になってくるよ?」
「あり…がと……やまと…ねて?」
「ん…もう寝る。おやすみ…結叶」
おでこに、ちゅっとすると
目を閉じて、そのまま眠りに就いた
どんなに寝てても
どんなに具合悪くても
ユウは、いつも自分じゃない誰かの心配
どうやったら、こんな綺麗な人間が、出来上がるんだろう?
「結叶…ユウ…」
可愛い可愛い結叶…
「もう、夢見て泣くなよ?」
頬にキスして
部屋を出た
突然現れた優しい人が
好きなだけ、玉入れしていいって言ってくれて
思う存分玉入れして
父さんと母さんに、沢山褒められて
楽しくて…嬉しくて…
夢中で頑張ってたら、喉乾いて
そしたら、冷たい物が喉を伝ってきて
目を開くと、優しい大和の顔が見えた
優しい人は…
大和だった
そっか…
1度も玉入れした事ないのに
やけにリアルだと思ったら
結叶は普通に玉入れしてたから、知ってるんだ
あれから…
出来ない事をしたいと言わないようにした
どうせ出来ないのに
皆が悲しくなるから…
出来る事だけやって
その中で笑ってる方がいい
「ユウ…」
「……母さん?」
「汗かいたね?着替えよっか」
「ん…自分で出来る…」
「そうね?はい、起き上がるわよ?」
「ん…ありがとう」
「ここに、着替え置いておくわね?飲み物取って来るから」
モタモタと着替えをすると
母さんが、スポーツドリンク持って来て
熱を計ると38.3℃
「喉痛い?」
「だんだん痛くなってきた」
「声酷くなってるもんね?熱も、下がり切らないし、ちょっと大変だけど、今日のうちに、頑張って病院行こうね?」
「うん」
そう言って母さんは、俺の着替え終わった服を持って、出て行った
また…何日か、母さんはちゃんと眠れない
ん…寒い…
また、熱上がるのかな
この…ざわざわする不快な感じ
熱があるのに…指先冷たい
ゆっくり上がってくれないかな
朝、皆が起きる位まで…
「蓮君、今日から、お部屋から出てもいいって」
「ほんと?」
「でも、走っちゃダメよ?あと、この病棟の中だけね?」
「分かってる」
病棟の中だけだって
部屋の中だけとは、全然違う
さっそく散歩だ
デイルームに行くと、誰かが話してる声…
この声…
郁人兄ちゃんだ!
「郁人兄ちゃん…」
「お、蓮。部屋から脱出か?」
「うん。今日から、いいよって」
「良かったな」
ちらりと、郁人兄ちゃんの隣を見る
帽子を被ってて
眉毛が凄く薄い
「蓮、海斗 だ。俺と同い年なんだ。もうすぐ退院するけどね」
「初めまして…蓮です……6年生?」
「そうだよ…俺の顔、怖いよな?ごめん」
「?…怖くないよ?海斗兄ちゃん、退院するの?おめでとう」
「……俺の顔、変だろ?怖くないのか?」
「?…変って?怖くないよ?」
なんで…
さっきから、そんなに聞いてくるんだろ?
「だって、眉毛ないだろ?髪も、全然見当たらない」
「うん…?」
「皆と全然違ってて、変だろ?」
「……僕も時々、鼻に管したり、口に酸素のマスクして、皆と違うよ?あと…すぐに指とか唇…紫色になっちゃう」
「それは…その少しの間だけだろ?」
「……見えないけど…僕の心臓、皆より1個お部屋少ないよ?」
「…え?」
「だから、皆と同じ事出来ないよ?」
そういう事じゃないのかな?
「……俺、もう少ししたら、退院するけど、次入院したら、多分…足…切られるんだ……俺の左足…半分なくなるんだ……怖いだろ?」
「足…切ったら治る?」
「足切って…また、今回みたいに、沢山薬使って、髪も眉毛もなくなったら…治るんだって」
「そうなんだ。良かったね?」
「……え?」
「治る方法あるなら、良かったね?」
なんか…凄くびっくりしてる
変な事言った?
「郁人兄ちゃん…変な事言った?」
郁人兄ちゃんの手をぎゅっと握る
「大丈夫。変な事は言ってないよ。でも蓮、そろそろ部屋戻ろっか」
「……うん」
「海斗、ちょっと待ってて」
なんか、きっと…
良くない事言ったんだ
隣を歩く郁人兄ちゃんを見上げる
「海斗兄ちゃんが、悲しくなる事言った?」
「言ってない。海斗は今、沢山の事考えなきゃならないから…1つの事考えるにも、凄く時間が必要なんだ」
「海斗兄ちゃんに…謝らなくていい?」
「大丈夫。今すぐにじゃなくても、きっと蓮が言った事が、役に立つ日が来るよ」
「ほんと?」
「ほんと。蓮は優しいな?」
優しいのは郁人兄ちゃん
俺より、ずっと入院多くて、苦しい事も多くて
入院してても、酸素使ったりしてる事も多くて
なのに、いつも皆に優しい
「ユウ…おはよう」
「……おは…ゲホゲホッ…」
「ああ…昨日より喉悪化してるな?大丈夫か?」
「ん…朝?」
「ん…また熱上がったな?計ってみよう」
「計れる…ゲホゲホッ…大和…学校」
「ユウの熱計れない程、ギリギリじゃないよ」
郁人兄ちゃんに憧れて
郁人兄ちゃんみたいな兄ちゃん、居たらな…
とか思ってたから、お兄ちゃん欲しかったって気持ちがあったのかな
ピピッ
39.3℃
「上がってきたなぁ…母さんに言って来るから、寝てな?」
「ん…ありがと」
母さんに言って来るって言ったのに
次に来たのは、父さんと四葉だった
「ユウ、解熱剤持って来たぞ?」
「ユウ~…苦しい?」
「父さん…ありが…ゲホゲホッ…四葉…あんまり近付けないで…」
「だ、そうだぞ?四葉」
「大丈夫だもん!四葉、健康優良児だもん!」
なんて、羨ましい言葉
「とりあえず、飲め」
「あと、大丈夫…父さ…ゲホゲホッ…仕事…四葉、学校…行って」
「タクシーでも、病院行くのしんどいよなぁ…いっぱい待たされるしなぁ…でも、頑張れとしか言えないんだよなぁ…」
「ユウ、四葉も傍に居て欲しい?四葉、学校休んで大丈夫だよ?」
何が…どの辺が大丈夫なの?
学校休むの大丈夫じゃないし
俺に近寄らないでってば
「四葉…学校は行こうな?ちゃんと、母さんが付いてってくれるから」
「四葉が居れば、ユウにパワー注入出来るよ?」
「いつ、そんな技覚えたんだ?とにかく、そろそろ行かないと、遅刻するからな?ユウ…それじゃ行って来るな?」
「うん…行ってらっしゃい」
「あ~…ユウ~…お父さん離してよ~…」
「ふっ…ゲホゲホッ…四葉も、行ってらっしゃい」
少しパワー貰ったよ
父さんと四葉が去ってくと
今度は、大和がシュウを連れて来た
「ユウ…悪化してるね?」
「すぐに薬飲んだんだけどな…」
「体育で…裸になってたからかな…」
「えっ?!裸?!何?その話…」
「大和…違う…シュウ…言い方…」
「体育の授業中…柔道着…はだけて……先生に抱き付かれてたみたい…」
言い方って、言ったよな?!
更に誤解を生む様な言い方に、なってますけど?!
「……へぇ~?シュウ…後で詳しく聞かせてもらおうか…」
「違っ…ゲホゲホッ…大和…」
「ユウは、大人しく寝てような?行って来るからね?」
「ユウ…行って来るね?」
「行って…らっしゃい…」
怖い…
大和が、俺や四葉に危険が及んだ時に、ふと見せる、いつもとは違った笑顔が…
先生…何事もありませんように…
病院…
どうして…何処も、いつでも、こんなに混んでるんだろ…
「ユウ…大丈夫?」
「うん…今、熱下がってるし」
待って待って、診察して、また待って
薬貰って帰ると、大体半日終わってる
「ユウ、お粥かうどん食べれる?飲み物だけにする?」
「お粥…」
「じゃあ、作るから待っててね?上行って寝る?」
「食べて…薬飲んだら…ゲホゲホッ…上行く」
「じゃあ、ソファーで横になってて?」
「うん…」
母さんが、すぐに毛布を持って来てくれる
あったかい
「ありがと…」
具合悪い時の病院受診…
秒で眠りに就いた
「蓮?」
「…海斗兄ちゃん?」
病室のトイレから出たところで
病室の前を通りかかったらしい、海斗兄ちゃんに声を掛けられる
「やっぱ蓮か。久しぶり…調子悪いのか?」
「久しぶり…ちょっとね…でも、鼻の酸素してれば大丈夫」
「そっか...」
そう言って、壁に取り付けられてる酸素から、俺の鼻まで延びてる管を見る
「海斗兄ちゃんも入院してたんだ…髪も眉毛も、伸びたね?」
「ま、この後治療するから、また失くなるんだけどな?」
「そっか…でも、海斗兄ちゃん、前より元気そうに見える」
「まあな…そっか、蓮入院してたのか…後でまた会えたら話そっか」
「うん」
あれから半年位して会った海斗兄ちゃんは
松葉杖になってて
足はあったけど…
とにかく、前より元気そうだった
結局…その時は、俺が退院するまで会う事はなくて…
「ユウ…お粥出来たわよ~」
「ん…ありがと…ゲホゲホッ…」
「大丈夫?無理しない程度でいいからね?」
「ん…」
でも、この後、もっと辛くなるのを知っている
どんどん食べれなくて、体力も落ちていく
少しでも食べれるうちに、食べときたい
「ユウ…」
「ん…?」
テーブルに向かい合わせで、母さんが、肘を付いてじっと見てる
「どうしてユウは、言わないのかな?」
「?…何を?」
「なんで自分だけ…って、思うでしょ?大和も、四葉も、ユウよりずっと元気で、学校の周りの友達も……何度も何度も思うでしょ?言っていいのよ?」
「母さん…」
ずっと…そんな風に思ってたのかな
ずっと、俺がそう思ってるって…
「俺は弱いけど…大体皆と同じ事出来るよ?自分だけって思うのは…皆に心配かけて…迷惑かけるのが多いから…ゲホゲホッ…皆の時間奪って…余計な手間かけて…」
「結叶…ユウは、どうしてそんなに優しいのかな?どうしてそんなに強いのかな?」
「だってそれは…」
「それは?」
「俺の周りに、強くて優しい人達が居るから」
「蓮!」
「海斗兄ちゃん…久しぶり。受診?」
「そう。こんにちは」
「こんにちは。あなたが海斗君ね?蓮から聞いた事あるわ」
「こんにちは、蓮君」
「こんにちは」
母さん同士話し出したので
海斗兄ちゃんと話をする
「元気か?蓮」
「うん。最近調子いい。定期受診」
「そっか。俺も、定期受診」
「じゃあ、海斗兄ちゃんも、調子いいんだ」
「まあな。結局、足は半分失くしたけど…髪と眉毛は、また伸びてきたろ?」
「うん…足…あるよ?」
「これは、義足って言って、足の替わりになるのを付けてるんだ」
「ふ~ん?」
足の替わり…
失くなっても、替わりあるんだ
心臓も…替わりあればいいのに
「なかなか慣れなかったり…リハビリは辛いし…大変な事いっぱいあるわ」
「そっか…」
「蓮は?蓮も、大変な事いっぱいあるだろ?」
「うん…でも、ここのとこ調子いいから、ほとんど学校休まないで行けてるんだ。海斗兄ちゃんと会ってから、入院もしてないんだよ?」
「……そっか。それは…凄い…んだよな?」
「うん…?」
海斗兄ちゃんが、優しく頭を撫でてきた
「蓮は、凄いな?凄く強い」
「強くないよ?凄く弱いよ?」
「体はな?でも、心が強い」
「心…?」
「俺は…凄くイラついて…皆に八つ当たりした…優しくしてくれんのも、イラついて…なんで?…なんで俺だけって思った…」
「海斗兄ちゃん?」
なんか…泣きそう?
「けどさ、郁人と会って…全部聞いてもらって…同い年の奴に、俺もそう思うよって言ってもらったら…なんか…1人じゃないって思えて…その後蓮に会って…俺がどれだけ大変なのかを伝えたはずが…治る方法あるなら、良かったね?って言われて……」
「あ…あの時…」
やっぱり気になってたのかな
謝った方がいいのかな
「なんて言うか…目が覚めた」
「え?」
「自分の事しか…自分が今辛い事しか考えてなかったんだって…理解させられた」
「……よく…分かんない」
「分かんなくても、蓮は、俺に頑張って生きてこう!って、思える力をくれたんだ。ありがとう」
「……俺、海斗兄ちゃんが、悲しくなる事言ったのかと思ってた」
海斗兄ちゃん…
あの時、びっくりして固まってたから
「違うよ。蓮のお陰で、手術もリハビリも頑張れて…また髪抜ける辛い治療の入院の時も…小さな蓮が、酸素付けながら一生懸命生きて…笑顔で俺に元気そうって言える蓮を見て…また俺は、頑張ろうって思えて…こんな風に頑張っていられるのも、周りの人に優しく出来るのも、蓮のお陰なんだ。ありがとう」
そう言って、また頭を撫でてくれた
「じゃあ俺も、海斗兄ちゃん、ありがとう」
「俺は、何もしてないよ?」
「海斗兄ちゃんとか…郁人兄ちゃんとか…色んな人が優しくしてくれるから、俺も優しくなれる。強くて優しいんだとしたら、皆がそれをくれるからだよ?」
「……蓮は、やっぱり凄いな?」
「そうかな?」
「蓮…もう俺、受診…あんまり来ないと思う。だから、会う事なくなるかもしれないけど…ずっと思ってる。蓮が少しでも元気で居られる様にって…」
「うん、ありがとう」
沢山の優しさが包んでくれる
寂しいも…不安も……
諦めも…羨ましいも……理不尽も……
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