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腐れ縁

「ナルケマレバンガカピカッピ」 ? なんか…聞こえる 「ナルケマレバンガカピカッピ」 ゆっくり目を開けると 四葉が俺の上に両手をかざして 目を閉じている 「ナルケマレバンガカピカッピ」 「四葉?」 「あ、ユウ起きた」 「四葉…お帰り」 「あのね、ユウに元気になれるおまじない、かけといた」 「さっきの、ピッピってやつ?」 「ピカッピね。きっと、すぐ元気になるよ」 「ふっ…ありがと」 おまじない…可愛い 難しそうな言葉、一生懸命覚えたんだろな 「ユウ、もう少ししたら晩ごはんだって。四葉持って来る?」 「大丈夫だよ。起きて下行…ゲホッ…ゲホゲホッ…」 動くと、咳出やすい 慌てて、布団で口元を隠す 「ユウ…大丈夫?喉痛い?」 「ん…大丈夫だよ。下行こ?」 「うん…ユウ…手繋ぐ?」 「大丈夫だよ。ありがと」 自分が出来る事探して… 気持ちがいっぱいになる 「ユウ、起きたの?ご飯、お粥なら食べれそう?」 「うん」 「結構、喉痛くなってる?」 「うん」 「そっか。無理しない程度にね?」 ダイニングテーブルの椅子に座ると、 「あのね、四葉ね、ユウが元気になるおまじないかけて来た!」 「え~?四葉そんなの知ってるの?」 「うん!あのね?ナルケマレバ…」 四葉、学校から帰って来て母さんが居るから、嬉しそう 女の子だし、兄ちゃんより、母さんと沢山話したいよな… 「四葉が…四葉が卵やる~」 「卵やるの?」 「うん!」 「じゃあ、お願い。お鍋熱いから、気を付けてね?」 「は~い」 テーブルに腕を組んで、顔を置く 「グツグツ…グツグツ…もうちょっと?」 「もう少しかな~」 「ユウ、もうちょっとだよ~」 「うん…ありがと…」 「卵、ふわっふわにするね~」 「うん…楽しみ…」 涙…出そうになる なんの涙かな 誰の涙かな 「出来上がり~!ユウ~…今持ってくから…待っててね~」 「はい、蓮華(れんげ)」 「お待たせしました~…ユウ?具合い悪い?」 「悪くないよ。嬉し…ありがと。なんか、元気になってきた。凄いな?四葉」 「へへっ…」 ピンポ~ン 「この時間は…きっとシュウ君だ!は~い!」 「四葉は元気だな…」 「ユウ…四葉が手伝ったからって、無理して全部食べなくていいのよ?」 「うん。でも、今ならまだ結構飲み込める。食べれるうちに…食べとく」 「そうね」 四葉がシュウに、おまじないと、卵粥の自慢をして 熱かったお粥が、すっかり冷める頃、なんとか食べ切った俺は 覚えのある不快感に包まれてて ピピッ 37.8℃ 「寒気がしててこれは…本格的に上がり出すわね~。ユウ、下で寝る?トイレとか大変じゃない?」 「大丈夫。そこまで体力落ちてきたら考える」 「俺、部屋まで一緒に行く」 「シュウ君、ユウをお願いしま~す!」 階段を上るのも、体が重い 「掴まる?」 「ゆっくりなら、大丈夫」 「ユウ…泊まろうか?」 「何言ってんの?シュウは学校あるんだから、ちゃんと家帰って寝ろ」 「ん…」 ベッドに辿り着いて、横になると 「もう少し、何か掛けようか?」 「うん…なんか…適当に掛けといて…」 クローゼットから、毛布を引っ張り出して、シュウが掛けてくれる 「ありがと…」 「……一緒に寝てあげたいけど…」 「ダメに決まってんだろ?」 「じゃあ…ユウが寝るまで…手、握ってたい」 「手…ならいいけど…帰ったら、うがい手洗いしとけよ?」 「ん…」 シュウが、布団の中の俺の手を握ってくる 「冷たい…」 「ん…熱…上がり切るまでは…」 「ユウ…頭撫でていい?」 「ん……」 シュウの手…あったかくて気持ちいい 頭も…あったかくなって… 「ん…」 「あ、ごめん。耳…嫌?」 「耳も……寒いから……」 「じゃあ、あっためるね」 思いの外冷えてた耳が、あったかくなって あっという間に眠ってた 冷たい手… 俺だって風邪を引いて、熱が出た事くらいある だから分かる こんな風になってる時の、ざわざわする不快感 熱が上がる度、身体中の関節が痛くなって… 気持ち悪くなって ユウは、いつも喉にくるから また数日、まともに食べれず 喉の痛みと、それを助長する咳に堪えなきゃならない 「ユウ…」 少しあっためてると、すぐに寝息を立て始めた このまま、傍に居てあげたいけど 俺が居ても、邪魔なだけだから 「ユウ…夢の中でも…なるべくユウで居て…」 夢をみると、蓮になってしまう事が多いから… 「ユウ…俺を…忘れないで…」 俺の居ない世界に 行ってしまわないで ユウのおばさんに、晩ごはん食べてけと言われて 晩ごはんを食べ 帰る前に、もう一度ユウの様子を見に行く だいぶ、手があったかい 熱、上がってきてるんだろな 「ユウ…また明日来るね…」 頬にキスをして ユウの部屋を出た 風呂も宿題も済ませた頃 下が賑やかになってくる 続々と帰って来る家族達の元へと向かうと 「シュウ、ユウ君どう?」 「見て来たんだろ?生きてたか?」 「喉…辛そうだった。これから…まだ高い熱出そう」 「ユウ君、すぐに喉やられるから、辛いよなぁ」 「俺は腹だな。腹も結構辛いぞ?シュウは、頭痛から始まるよな?」 「うん…」 けど、俺も朔兄も 何日も学校休む程って…滅多にない ユウは…珍しくない 部屋に戻って、ベッドに横になる いつもは普通に笑って、走って、元気 でも、体調崩すと…凄く調子悪くなる 同じ兄弟なのに、大和も四葉も元気 同じ環境なのに、俺も朔兄も元気 なんでユウだけ… ユウだけ、凄く一生懸命生きなきゃならない そんな訳ないけど 蓮の話聞いちゃったから… なんか…蓮のせいなんじゃないかとか… 思ってしまう ユウに…これ以上干渉しないで欲しい コンコン 「シュウ…ちょっといい?」 「うん」 朔兄が、部屋に入って来て 起き上がった俺の傍に座った 「何?」 「いや…ユウが調子悪いから、元気ないのか?」 「…俺…元気ない?」 「ないな…って、俺は思った。気のせいなら、いいんだ」 「……気のせいじゃ…ないかも…」 ぽふっ 朔兄が、俺の頭の上に手を乗っける 「ユウが、風邪引いたり、調子悪くなんのは、珍しい事じゃないだろ?どうした?」 「なんでユウばかりが…あんなに苦しい思い…しなきゃなんないんだろ…」 「シュウ…」 朔兄に聞いたって… 誰に聞いたって分かる訳ない 答えなんてない 人それぞれ…与えられた体で生きるしかない 「ユウは…不幸か?」 「…え?」 「そりゃ、健康は金に代えられないって位…ありがたいってのは分かるけどさ…一生治らない病気な訳でもなければ、ユウが調子悪くなった時、こんなに心配してくれる奴が居てさ…」 「うん…」 ガシガシと 頭に乗っけてた手で、頭を撫でてくる 「健康な体さえあれば、他は何もなくてもいいってもんでもないだろ?じゃあ、健康じゃない時は、それ以外のあって良かった…貰えて嬉しいってもんを、あげられたらいいんじゃねぇの?」 「……うん…そうだね?簡単な事だ」 「そ。子供でも分かる。案外子供の方が分かるかもな?難しく考え過ぎんな」 難しく… つい…気になって あれこれ、ごちゃごちゃ、考えてしまうから 「ありがと朔兄…明日また、朝も様子見に行くよ」 「お前らは、生まれる前からの幼馴染みなんだから、居るだけで安心するさ」 「うん………朔兄と大和の幼馴染みは…俺達とはだいぶ違うね?」 俺達とは、まるで違った形の幼馴染み あまり、会わないし 凄く仲良しって訳でもないのに なんか…合ってる 「あれは、幼馴染みと言う名の腐れ縁だ。お前達と同じ、幼馴染み枠に入れるな」 「小さい頃は…今よりずっと、大和と一緒に居たよね?朔兄は、大和の事好きになった事ないの ?」 「……は?!あいつを?!俺が?!ある訳ねぇだろ!全身鳥肌立ってるわ!なんちゅう恐ろしい事考えんだよ?!」 朔兄が、俺の頭から手を離して 固まった後に、興奮し出した 「……そうなんだ」 「そうだよ!2度とそんな恐ろしい事考えんな」 「分かった」 「いいか?シュウも気を付けるんだぞ?あいつは、あんな笑顔見せといて、中身は悪魔だからな?何でも、はいはい言う事聞くなよ?」 「……分かった」 そう言って、朔兄は部屋を出て行った 朔兄は、あんな風に言うけど… いつだったか 部屋を出る時、ドアを開けっ放しにしてく事が多い朔兄 ユウの家から、何か物を取る為に、自分の家に戻ると靴があって、朔兄が帰って来てたんだと思った けど… こんな靴あったっけ? 階段を上るとドアが閉まってて 自分の部屋から、目的の物を取り… 寝てんのかな? 全然物音しない 「朔兄?」 控え目な声で声を掛けてみたけど、反応がなくて 「開けるよ?」 ゆっくりドアを開けると… 「……大和?」 朔兄のベッドには 朔兄ではなく、大和が寝ていた 驚いた 大和は、朔兄含めて 俺達の中では1番お兄ちゃん的存在で 何でも知ってて 何でも出来て いつも余裕で こんな寝顔見せる事もなければ こんな物音や気配の中 気付かず寝てるなんて、あり得なかった す~…す~… 凄く気持ち良さそう… 俺は、静かに部屋を出た きっと朔兄にとっては驚く事ではないんだろう よく…ではなくても たまに、ある事なんだろう あの大和が… ここなら、安心して眠れる そう信じて疑わずに熟睡してた まるで、小さな子供みたいに 熟睡してた 大和が 他の人の前では、怒ったり、喧嘩したりしてるの見た事ない けど… 朔兄の前でだけ、大和は怒るし、喧嘩もする 2人にとっては、それが幼馴染みで、腐れ縁って関係なのかな 時々…ほんの一瞬 大和が、朔兄の事を、少し不安そうな心配そうな目で見つめる 1番のお兄ちゃんだから? 誰より大和に怒られて、褒められない朔兄の事、心配してるだけ? それとも… 何か別の理由がある? 中身は悪魔だからな?何でも、はいはい言う事聞くなよ? 悪魔の大和は、どんななんだろ? その悪魔は、普段どうしてるんだろ? 朔兄の前でしか出て来れないのだとしたら それは… 酷く窮屈な毎日だろう

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