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宿泊研修
「ユウ…気を付けて行って来るんだぞ?」
「そんな遠いとこ行く訳じゃないよ」
「具合悪かったら、すぐ!先生に言うんだぞ?」
「分かってる。父さん、遅刻するよ?」
「ユウ…いいかい?男の子でも女の子でも、誰かと2人きりになったら、充分注意するんだよ?」
「大和…注意って?」
「はぁ…心配だなぁ…シュウが同じクラスだったら良かったのに…」
「よく分かんないけど、大和、遅刻するよ?」
「ユウ~~!」
「四葉~!明日まで会えないの、寂しいな」
「ユウ、シュウ君以外の人と、こうやってぎゅってしたり、ちゅってしたらダメだよ?」
「しないよ。する訳ないだろ?」
「うん!行ってらっしゃい。ちゅっ」
「無理しないでね?お迎え必要だったら、すぐに迎えに行くからね?」
「母さん…皆心配し過ぎだよ。明日には帰って来るんだから」
「そうね。楽しんで来て~」
「うん。行って来ます」
たかがバスで2時間程の場所への宿泊研修
普段から心配かけまくってる俺は
たった1泊だけでも、かなり心配される
「さ~て…穂積は、先生の隣だ。窓側行け~」
「はい」
俺の、バスでの定位置
「酔い止め飲んだか?」
「飲みました」
「よし」
皆で、わいわい
お菓子食べたり、お喋りしたり
それは、ちょっと難しい
頑張ろうとして、なんとかなるものでもない
けど、バスで大人しく寝てると
現地に着いた頃には、元気だ
「穂積、あんまり煩くて眠れなかったら言え」
「大丈夫です。皆の賑やかな声聞きながら寝るの、結構心地いいんです」
「そうか」
一緒には騒げないけど
ちゃんと同じ場所に居る
俺も皆と同じく参加出来てる
ゲームをしたり、歌を歌ったり
目を閉じて、心の中で参加する
目を閉じて考えるのは得意なんだ
「幼馴染みとラブラブになるには、色んな試練とか、強力なライバルが居ないとね~」
また…BLの話?
ラブラブは…普通にラブラブじゃダメなの?
「どうしよっかなぁ…どんなトラブルがいいかなぁ…」
楽しそう
でも…葵の話も…
だんだん聞く時間…短くなってきた
気付くと寝てて
葵は居なくなってる
「穂積…穂積…」
「ん…」
「もうすぐ着くぞ。起きて大丈夫そうか?」
いつの間にか眠ってた
「はい。ぐっすり眠れました」
「よし。着いたら、結構歩くからな」
景色の綺麗な森の中を皆で歩く
「穂積、大丈夫か?荷物持つ?」
「甲斐…ぐっすり寝たから、全然具合悪くなんなかったよ。大丈夫」
「大変だなぁ…薬飲んでも、寝てなきゃ具合悪くなるなんて…」
「でも、バス降りちゃえば平気だから」
綺麗な空気
川が見えてきて
どんどん水流の音が強くなってきて
「そろそろ見えてくるぞ~」
先生がそう言って、しばらくすると
「わぁ…」
滝が出て来た
「すっご~い」
「デカイな」
「マイナスイオンだ~」
「音もデカイ!」
滝の傍で、クラス毎に記念撮影
しばらくその辺で、滝を見たり、友達同士で写真撮ったり
ふと…皆から少し離れた所で
四つん這いで、滝を覗き込んでる人が居ることに気付く
俺達とあんまり変わらなそうだけど
見た事ない制服
他の学校も来てるのかな
危ないなぁ…
ってか、1人置いてかれて大丈夫なの?
しばらく下を覗き込んでたと思ったら
立ち上がって、ふらふらと歩き出す
滝の方に向かって!
「ちょ…ちょっと!」
びっくりして、走り出したところで
「穂積!」
ぐいっと手を引っ張られた
え?
「どうしたんだよ?こんなとこで走ったら危ないだろ?」
甲斐が、心配そうに俺の手を引いてた
「甲斐…だって……」
そう言って、前を見ると…
その子は居なくなってた
「……え?」
まさか…もう……
再び走り出そうとする俺を、またしても甲斐が引っ張る
「穂積、どうしたんだよ?危ないってば!」
「なんだ?甲斐…穂積がどうかしたのか?」
「穂積?どうした?」
徐々に人が集まって来た
「誰か…さっき、あそこに居た人見てない?」
「何処?」
「あそこ!さっき、人が居たんだ!もしかしたら、落ちちゃったかもしれない!」
俺が、さっき居た子の方を指差すと
「あんなとこに、人居たか?」
「さあ?俺は、見なかったけど」
「ってか、あそこまで、どうやって行くんだよ?無理だろ」
「だな?見間違いだ」
そう言われて、よく見てみると
確かに、その場所に行くには
かなりの崖の様な所を通らなければならなくて
1歩間違えたら…って感じの道しかなくて
普通は、そんなとこ行こうなんて思わない
「お~~い!そろそろ戻るぞ~!」
「穂積、ほら行こ?」
「……うん」
見間違い…
で、ある事を信じる
だって、あんな滝の中に落ちたら
きっと助からない
中学生男子が…
なんて悲しいニュースが流れない事を祈って
俺は、大人しく皆と歩き出した
それから、近くにある郷土資料館に行き
併設されてる食堂でお昼ごはん
「穂積…体調悪い?」
「え?」
「なんか…食事進んでないし、顔色あんまり、良くなさそう」
あの子の事が、気になって
なんとなく気持ちが重いから…なのかな
たしかに、食欲あまりない
なんとなく、体だるい
「俺、体力ないから、少し疲れただけ」
「そっか?無理すんなよ?」
「ありがと」
それから、宿までバスに乗ると
すっかり俺は、調子が悪くなり
宿に着いて早々
静かな場所で休めと
先生達の部屋に寝かされた
部屋着に着替えて、少し楽になったけど
何故だか、少し熱も出てきて
先生も、養護教諭の先生も心配してた
でも…
寝てれば治るからと言って、寝かせてもらった
せっかく来たのに、帰りたくない
皆が居なくなって少しすると
誰かが傍にいるのに気付いた
だるいのと眠いのとで
目も開けずにいると
ゆっくりと、頬を撫でてきた
誰?
シュウ?
けど…凄く手が冷たい
俺が熱あるから?
声も出せずに居ると
唇に…多分、キスされた
やっぱりシュウか
俺が居ないの気付いて、先生か誰かに聞いて
見に来たのかな
「ユウ…ユウ…」
「……シュウ」
ずっと居たの?
そんなに居て大丈夫?
「大丈夫?」
「大丈夫…もう戻った方がいい」
「うん…」
「泣きそうな顔すんな。寝てれば良くなる」
「うん…」
しばらく、俺の手を握った後
シュウは去って行った
けれども、俺の調子は全然良くなんなくて
熱がそれほど高い訳でもないのに
「穂積、おにぎりとかにしてもらったら、食えそうか?」
先生も心配してくれるけど
全然食欲なくて断わった
消灯前に、クラスの奴らも、シュウも、見に来て声掛けてくれたけど
たいして答えられない俺を見て、早々に戻って行った
結局俺は、そのまま先生達の部屋で寝る事になり
なんだかなぁ…
明日には、少しは復活してる事を信じて、眠りに就いた
冷たい…
シュウ?
また…頬触れながら、キスしてくる
夜中だよね
こんな時間に来たら、先生に見付かって怒られるよ
なんか…変…
唇も…舌まで、凄く冷たい
「……シュウ?」
ようやく、うっすら目を開けて、声が出た
目を開けて見たのは…
誰?!
蒼白い顔…
月明かりで…透き通ってるみたいに見える
男の子…だけど
凄く綺麗な子
「……誰?」
「ゆう…」
「君も、ゆうなの?」
「僕の…好きな人…」
「え?」
「ゆう…好き…」
夢見てるのかな
目が開いてる様で開いてない様な
喋ってるのに喋ってない様な
「ゆう…ずっと言いたかった…好き…」
その、ゆうは…別の人だと思うんだけど
この子も夢見てんのかな
夢で繋がっちゃったのかな
凄く悲しそう
「ゆう…好き…」
「ありがと」
俺は、そのゆうじゃないけど
あんまり悲しそうで
そう言ってしまった
「ゆう…ゆう…」
「んっ…」
夢だから、いいんだけど
キスとか、本物とした方がいいと思うんだけど
シュウと同じ様に
凄く大切そうに触れてくる
ほんとに、好きなんだろな
言いたかったって
言えてないんだ
「ゆう…」
「んっ……はっ…んんっ…?!」
腹やら胸やら触りだした!
冷たい!
指…冷たいよ!
これ、本物だ!
「ん~~っ!」
先生!なんか…誰かに…
襲われてます!
3人も居るのに、なんで誰も気付かないの?!
体…上手く動かせない
なんで?
目は開くのに…
…あれ?
この子…
あの滝のとこに居た子じゃない?
生きてたのは良かったけど
なんで、こんな事…
え?
あれ?
生きて……ないの?
よく考えたら、あんなとこまで行くのに、誰も見てないなんて変だ
先生だって気付くはず
そもそも、制服着てるんだから
そっちの先生、捜しに来るはず
一気に信じたくない可能性が浮上してくる
だって俺…大和じゃないもん
見た事ないもん
けど…なんか透き通っちゃってる
「ゆう…ずっと…触れたかった」
俺は君のゆうじゃない!
「ゆう…」
「んっ!」
冷たい指先で、あちこち触らないで
かと思ったら…
今度は、冷たい唇を、胸に付けてくる
「ぁっ!…ゃっ…」
冷たい
くすぐったい
叫んだら、先生起こせるのに
大きな声出ない
胸の色んなとこキスしてると思ったら
今度は、吸い付いてきた!
「ゃっ…んんっ…」
これ…あれじゃない?
キスマーク付ける時、こんなんじゃなかった?
キスマーク付けられると、困るんだって
「んぁっ!」
背中!
そんな冷たい手で触らないで!
「ゆう……ゆう……」
ユウだけど、ゆうじゃないんだってば
この子…
信じたくないけど幽霊で
あの滝のとこで亡くなったんだ
だから…どこもかしこも冷たくて
髪から…雫がぽたぽたと…
けど…
冷たいんだけど
ほんとに大切そうに触れて…キスする
大切そうに名前呼ぶ
ほんとに、ほんとに、好きだったんだろな
俺がたまたま見ちゃったから?
たまたま好きな相手に名前が似てたから、見えたの?
俺以外には見えてなくて
きっと、今までも誰にも気付いてもらえなくて
ずっと冷たいままで…
まあ…いっか
どうせ体動かせないし
好きにしてよ
「っ!」
冷たい指で…唇で…舌で…
乳首を執拗に触れてくる
体を捩りたいけど…動かせない
じんじんと…変な感覚が奥から上がってくる
「んっ…はぁっ…」
変…
なんか…変…
氷の様な指で摘ままれたり
氷の様な舌で舐められたりしてるうちに
「~~~~っ!」
叫びたい衝動に駆られる
けど…声…出ない
なにこれ…
じわじわと…奥から沸き上がってくる
胸…動かしたい
声…叫びたい
どれも叶わなくて
涙が流れ落ちる
どんどん どんどん
感覚が強くなってって
頭ふわふわしてきて
真っ白になって、何も分からなくなって
気付いたら眠ってた
朝起きると
俺の周りだけが、雨漏りでもした様に濡れてて
先生達も、旅館の人達もびっくりしてた
一応熱が下がったので
旅館の人の好意で、朝風呂に入れてもらった
あんなに、びしょびしょって…
夢じゃなかったんだろな
そう思いながら、体を洗ってて気付く
「なっ?!」
鏡の中の俺の体
キスマークだらけ!
ちょっと!
好きにしてとは思ったけど
さすがにこれは、やり過ぎだろ
今さら幽霊に怒ったところで仕方ない訳で
どうにも体がだるかったけど
流石に今日は何か食べないと倒れるので
なんとか朝食を少しだけ食べた
先生達の部屋で、荷造りをしていると
「あの~…」
「はい?」
「余計なお世話かもしれませんが…ちゃんとお祓いしてもらった方がいいですよ?」
旅館のおばちゃんが、話し掛けてきた
「……えっ!…あ…あのっ!何か知ってるんですか?!俺…昨日、滝のとこで覗き込んでた男の子見て…」
「この辺りで有名なとこは、あそこしかないから、そうなんだろなとは思ったんですけど…」
おばちゃんが、言いづらそうにしながらも話してくれた
おばちゃんの話によると、7~8年前に俺達と同じ中2の子達が、宿泊研修で同じ様なコースを辿った
ところが、あの滝から郷土資料館に行った所で、1人居ない事に気付く
急いで手分けして捜すも見付からず
警察まで出動して、大騒ぎになったそうだ
結局、数週間後
滝からずっと下流にある川で、変わり果てた姿となって発見されたらしく
それまでの捜査で、日記に何度も自殺をほのめかす内容も散見され、自殺という事で落ち着いた
ところが、それからというもの
同じ様な年頃の、宿泊研修やら修学旅行やらで、その滝を訪れ、この旅館に泊まる子供達の中で、不可解な現象が起こり始める
しょっちゅうじゃなく
たまに、忘れそうになった頃
同じ様な事が…
そう…
まさしく俺が体験した様な
体の不調を訴えて、寝込んでしまい
朝起きると、その子の布団だけが、びしょびしょ
そして、よく耳にするそうだ
昨日、滝のとこで覗き込んでる男の子が居たと
背筋の凍る話をお土産に
俺は、酔い止めを飲んでバスに乗り込んだ
せめてもの救いは、ほんの少しだけど、旅館のご飯食べれて、お風呂入れた事
行きよりも、更に具合悪さアップで
皆の楽しそうな声をBGMに俺は眠った
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